トヨタ新型「GRカローラ」なぜ304馬力? 端数の“4馬力”はアメリカの事情!? 日米市場の違いとは

アメリカではホットハッチが求められている

 米国市場では、新型GRカローラのような、いわゆるホットハッチへのニーズは一定規模で存在するとトヨタは分析しています。

 ホットハッチのカテゴリーでは、これまでフォード「フォーカスST」「フォーカスRS」やフォルクスワーゲン「ゴルフ」といったスポーツモデルが人気を博してきましたが、フォードはこの領域から撤退することが決まっています。

米国で設定されるトヨタ新型「GRカローラ サーキットエディション」
米国で設定されるトヨタ新型「GRカローラ サーキットエディション」

 また、ホットハッチではありませんが、スバル「WRX STI」がハイパフォーマンス系として人気が高いものの、スバルの米国法人のプレスリリースなどによると「新型WRXは米国でSTIグレードが設定される予定がない」という解釈が米国市場で広まっているようです。

 さらには、米国市場でのホットハッチやCセグメントセダンでのハイパフォーマンス系モデルとしては、2000年代初頭から三菱「ランサーエボリューション」が導入されて市場全体を活性化したという経緯もあります。

 米国でのこのような実態を踏まえて、トヨタは新型GRカローラの開発において、比較車両としてWRX STIやランサーエボリューションを実際に購入するなどしてじっくりと研究してきたそうです。

 そのうえで、新型GRカローラ開発責任者は、スバルや三菱はWRCでのラリー活動やさまざまな競技などを通じた開発ノウハウを蓄積していたことを再認識したといいます。

 加えて、トヨタとしては「GRヤリス」でのWRC活動でのリアルタイムでの実績を、新型GRカローラにいかにして応用するかを、さまざまな走行シチュエーションで徹底的に走り込むなかで突き詰めていったのです。

 ただし、新型GRカローラは、GRヤリスやWRX STI、ランサーエボリューションのようにWRCで戦うことを念頭に置いているという訳でもなく、またホンダ「シビック タイプR」のように独ニュルブルクリンク最速などサーキットでのタイムアタックを重要視しているということもないとも説明します。

 もちろん、日本でラリーやジムカーナといった競技で、プライベーターが新型GRカローラを広く使われることは大歓迎とのことです。

「GRヤリスとはキャラクターが違うので、お客さんによっては新型GRカローラが良いという声も出てくることを想定している」と開発責任者は話します。

 なお、新型GRカローラを発売する国や地域については、販売数としては日本と米国が主体で、オーストラリアなど世界各国で比較的少量であるものの段階的に販売地域を広めていくということです。

※ ※ ※

 新型GRカローラについてもうひとつ気になるのが、走行騒音規制に向けた対策です。

 日本も含めて、世界各国で排気音やタイヤ走行音など走行中に発生する音量規制が段階的に厳しくなっています。

 そのため、日本のスポーツモデルのなかには、走行騒音規制をクリアすることが難しいため、量産を中止したり、次期モデルの開発を諦めるケースが出ています。

 この点について、新型GRカローラのエンジン開発責任者は次のように説明しました。

「このままこの状態で(新型GRカローラなどハイパフォーマンス車を)出し続けると、(走行騒音)規制値を通らないタイミングが間違いなくやってくることを認識しています。

 それに対して、走りとの両立、(具体的には)エンジン出力をどうスポイルせずに(製品として)出すことができるかまだ検証段階であり、これで出せますという答えはない状態です」

 また、走行騒音規制対応を踏まえたモーターアシストなど電動化について聞いたところ、「それもひとつの選択肢だと思っていますが、まだそれをやりますという訳ではありません」という答えでした。

 いずれにしても、日本でも注目度が極めて高い新型GRカローラ。水素燃料の開発車両としてなど、トヨタの技術開発の最前線でこれからますます活躍することが期待されます。

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。

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