なぜ雪国の大半が電気自動車なの? EV&PHEV80%占める「ノルウェー」 日本と異なる事情とは

EV推進は、ノルウェーが生き残るための重要な戦略

 では、なぜノルウェーはEVを推進するのでしょうか。

 それは、ノルウェーのエネルギー事情が大きく関連しています。ノルウェーは世界でもっとも電力が充実した国であり、アルミニウムの精製などの電力を大きく消費する産業が豊かです。

 そのほとんどを担うのが、水力発電や風力発電、太陽光発電といった再生可能エネルギーです。

 ノルウェーでは、国内で使用するほぼすべての電力を再生可能エネルギーでまかなっており、電力自給率の非常に高い国となっています。

 再生可能エネルギーの大部分を占める水力発電は、春から夏にかけて貯水池にためられた雪解け水を、降水量が少なく、電力消費量が多くなる冬に利用するという構造です。

 つまり、豪雪地帯であるからこそ成立する仕組みといえます。

 一方、日本ではあまり知られていませんが、ノルウェーは世界10位の石油輸出国であり、天然ガスについては世界3位の輸出量を誇る資源大国でもあります。

 つまり、火力発電に頼ったエネルギー政策を展開することもできたということになります。

 しかし、実際には、石油や天然ガスのほとんどは輸出用となっており、外貨獲得のために役立てられています。

 人口が少ないノルウェーは、人手を必要とする農業や工業が育ちにくく、石油や天然ガスを売却することが外貨獲得の重要な要素となっています。

 その意味では、自国で利用できる化石エネルギーはほとんどありません。

日産「リーフ」50万台目のオーナーとなるノルウェー在住のマリア・ヤンセンさん(画像:日産ストーリーズ)
日産「リーフ」50万台目のオーナーとなるノルウェー在住のマリア・ヤンセンさん(画像:日産ストーリーズ)

 その背景には、化石エネルギーに依存をしてしまうと、将来資源が枯渇した際に命取りになり、国家存亡の危機に直面してしまうというおそれがあります。石油や天然ガスの埋蔵量についてはさまざまな試算がなされていますが、いずれにせよ、原理上はいつか枯渇してしまう可能性があります。

 しかし、再生可能エネルギーで自国の電力供給をまかなえていれば、万が一の際にも対応することが可能です。

 そうした事情から、ノルウェーは資源大国でありながら、早くから再生可能エネルギーを推進する政策をとってきました。

 その結果、自国で利用するには十分な電力を再生可能エネルギーでまかなうことができるようになったのです。

 一方、電気はためておくことが困難です。そこで、EVを普及させることでそれぞれのクルマをバッテリーに見立て、余剰電力を限りなく少なくしているというわけです。

 このことからわかるのは、ノルウェーでは単に環境問題への配慮からEVを推進しているわけではないということです。ノルウェーにとってEVを普及させることは、自国を守っていくための大切な戦略でもあるといえます。

※ ※ ※

 もちろん、ノルウェーと日本では、産業構造も人口密度も異なるため、同様の政策をとることが必ずしも正しいとはいえません。

 しかし、現在の日本は石油資源のほぼすべてを海外に頼っており、その中でも中東への依存率が80%以上に上っています。

 さまざまな努力によって、これまでは石油の安定供給が実現されてきましたが、いつそれが破綻してもおかしくないという点においては、薄氷を踏むかのような状況であるともいえます。

 現在、急速なEV推進には賛否両論の声がありますが、現在の日本が置かれているエネルギー安全保障という視点からの冷静かつ慎重な議論も求められています。

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Writer: PeacockBlue K.K. 瓜生洋明

自動車系インターネット・メディア、大手IT企業、外資系出版社を経て、2017年にPeacock Blue K.K./株式会社ピーコックブルーを創業。グローバルな視点にもとづくビジネスコラムから人文科学の知識を活かしたオリジナルコラムまで、その守備範囲は多岐にわたる。

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