「急速充電20分」「900km以上走行」日産のEV新時代はもうすぐ来る? 飛躍のカギ握る全固体電池の現在地
そもそも何が「全固体」なのか?
そんな夢の技術のように思える全固体電池ですが、そもそも何が全固体なのでしょうか。
現在、自動車やスマートフォンなどで普及しているリチウムイオン電池は、正極材と負極材という2つの材料があり、その間にセパレーターという材料が挟まれています。そして電池内部の全体を液状電解質で浸しています。こうした状態でイオンが正極と負極の間を移動することで、電気が生まれる仕組みです。
この液状電解質を完全に固体にしたものを、全固体と呼びます。また、その中間で、液体と固体の両方の性質を持つ電解質を使うものを、半固体と称することがあります。

液状電解質を使うリチウムイオン電池の場合、仮に電池内部の不具合で温度が上昇すると電解質を介して発火して燃焼する危険性があります。一部の海外製EVや航空機向け電池、また純正ではないバッテリーパックをスマホにつないで発火したケースの多くがこれです。
そのほか、使用する温度が極低温だと液状電解質が凍ってしまったり、高温では性能が下がったりすることもあります。
劣化については、近年のリチウムイオン電池では充放電の回数に対する劣化はかなり改善されていますが、放置した状態での保存劣化については改善の余地が残されているといいます。
こうしたリチウムイオン電池のデメリットを払拭するのが、全固体電池です。
ただし、全固体電池は現在の液状電解質を固体電解質に単純に置き換えれば良いといいうものではないとも、日産は指摘します。
例えば、正極材と負極材の種類についてです。固体電解質は液状電解質に比べて圧倒的に数が多い組み合わせが可能になるといいます。その数は「数十万レベル」(材料開発関係者)というのです。
この組み合わせは、まずAI(人工知能)を使って振り分け、さらに機械学習によって絞り込み、その上で人間が吟味し実験に結び付けていくという大変な作業が必要です。
また、正極材や負極材と固体電解質が均等な圧力で接するための精度を出すなど、固体同士が直接触れることで生じる新たな課題が数多くあります。
こうした課題解決のため、日産は米西海岸シリコンバレーの開発拠点がNASA(米航空宇宙局)やカリフォルニア大学サンディエゴ校と、全固体電池に関する基礎技術について連携して研究を進めているところです。
一方で、常務執行役員・日産総合研究所所長の土井三浩(どい・かずひろ)氏は「日産が進めているのは、硫化物系固体電解質で、これが水分を含むと(有害な)硫化水素が発生します。その抑制方法については、すでに研究で実績が出ており、今後も研究開発を進めていきます」と、安全性のさらなる向上を約束しました。
このように日産が全固体電池の早期量産化に邁進(まいしん)するなか、国は産学官による検討会で2021年11月に「蓄電池産業の現状と課題」をまとめています。
そのなかで全固体電池についても触れており、「2050年に向けた次世代商品」として重要視しているところです。
一方で日本は、欧州、中国、韓国、アメリカなどと比べると、「国家戦略として電池産業政策が欠如している」と厳しく指摘しています。
その上で、国として全固体電池に対する技術開発の支援のみならず、液状電解質リチウムイオン電池のコストパフォーマンスの向上による、諸外国に対する産業競争力の強化の必要性も強調しています。
2020年代前半から中盤にかけて、日産を含めて、全固体リチウムイオン電池の本格量産化を含めた新たな電池開発の動きがグローバルで活発になることは間違いなさそうです。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。






























































































