なぜ「EVバイク」は普及しづらい? 世界的な電動化シフトでクルマと異なる問題点とは
自動車業界では、電動化が急速に進んでいます。実際に各社はさまざまな電動車をラインナップしていますが、バイクの世界ではクルマと比べてラインナップは充実していません。バイクの電動化が進まないのはどんな理由があるのでしょうか。
クルマとは違う、バイク特有のジレンマ
いまではかつてほど珍しくなくなった電気自動車(EV)ですが、バイクの世界を見ると、クルマと比べ、まだまだラインナップが揃っていません。
バイクの電動化が進まないのはどんな理由があるのでしょうか。
いま自動車産業では「100年に1度の大変革」と呼ばれるほど、大きなターニングポイントが訪れています。その中心にあるのは、いうまでもなくEVシフトです。
急速なEVシフトには賛否両論がありますが、この10年でEVのラインナップが大きく増えたのは事実です。
たとえば、ほんの10年前までは、日産「リーフ」や三菱「アイミーブ」程度だったEVも、現在では日産「アリア」やホンダ「ホンダe」、マツダ「MX-30」、2020年年央にはトヨタ「bZ4X」の発売も控えています。
そのほか、アウディ「e-tron」やポルシェ「タイカン」のように、高級輸入車ブランドでもEVがラインナップされるようになりました。
そうしたなかで、ホンダやGM、ジャガーやボルボなどが将来的にEV専業となることを発表しているなど、クルマの世界ではEVシフトはもはや既定路線となっています。
一方、バイクの世界を見ると、2021年11月現在、日本で正規販売がおこなわれている主要メーカーの電動バイクはそれほど多くありません。
代表的な車種としてはホンダ「PCX ELECTRIC」がリースのみの販売をおこなっているほか、ヤマハ「E-Vino」などがありますが、各社のバイクのラインナップ全体から見ればごく一部です。
クルマの場合、プラグインハイブリッド車(PHEV)やハイブリッド車(HV)も含めれば、コンパクトカーからセダン、SUV、スポーツカーにいたるまで、かなり多くの電動車が存在しています。
しかし、バイクでは、PHEVやHVのバイクもそもそもほとんど存在せず、電動車のラインナップは多くありません。
クルマとバイクの市場規模の違いや、世界的な需要の違いといってしまえばそれまでですが、実はそれ以外にも、バイクの電動化には現時点ではさまざまな “ジレンマ”があります。
電動車、とくにEVで重視されるのが航続距離です。
一般的なガソリンエンジン車やディーゼル車の場合、一回の給油で400kmから1000km程度の航続距離になります。またガソリンスタンドも豊富な数があるので、航続距離が問題となることはほとんどありません。
しかし、充電スタンドの数が限られており、なおかつ運転スタイルなどによって大きく航続距離が変わるEVは、できるだけ航続距離が大きなものをユーザーは望みます。
それでも、技術の進歩によって、実用的な航続距離を持つEVも増えてきました。
一方、電動バイクの代表格であるPCX ELECTRICの一充電航続距離は41km(1名乗車時)であり、PCXの160ccガソリン車が一回の給油で400km以上走行可能なことと比べるとその差は歴然です。
航続距離に直接的に影響するのは、バッテリーの容量です。大容量のバッテリーを搭載することでその分航続距離は長くできますが、バッテリーそのものの重量によって車重も増えてしまいます。
当然、車重が増えれば航続距離は短くなってしまうため、大ざっぱにいえば、航続距離を伸ばすために大容量のバッテリーを積めば積むほど重量が増えて航続距離が短くなるというジレンマが起こってしまうのです。
この問題を解決するために、BMW「i3」では、量産車としては異例となる、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を車体構造に採用することで大きく軽量化が図られています。
では、同様に、バイクのボディやフレームをCFRP化するなどして軽量化を図ることは無いのでしょうか。
バイクはクルマと比べてボディの質量が小さく、可能な限り軽量素材を使用したとしても軽量化できる程度は知れています。
つまり、電動バイクの航続距離がガソリンと同等になるためには、バッテリーそのものを飛躍的に性能が向上しない限り難しいということになります。
ちなみに、クルマでは主流となっているハイブリッドシステムをバイクに搭載することも難しいとされ、その大きな要因はスペースとコストです。
トヨタ式のストロングハイブリッドシステムをバイクに搭載しようとすると、エンジンとそれをアシストするモーター、そしてバッテリーなどが必要となりますが、バイクではそのスペースの確保が難しいのが実情です。
また、なんとか搭載しても、ハイブリッドシステムを搭載したことによる重量増などを考慮すると大幅な燃費向上は難しく、むしろコスト増によって車両価格が大幅に上昇することになり、必然的に商品としては成立しなくなってしまうのです。