ボルボの社長が語る電動化への未来と、オンライン販売をも見据えた接客術の祭典「CS-VESC」をリポート

商談はオンラインの時代へ?新しい時代のボルボの在り方

 マーティン氏は明治大学で経営学を学び(なので日本語がとても流暢)、1999年にボルボ・ジャパン(ボルボ・カー・ジャパンの前身)でキャリアをスタート。2008年にスウェーデン本社に異動し、グローバルCRMの責任者、ロシアおよび中国でカスタマーサービスの責任者、本社グローバルカスタマーサービスの責任者、ボルボ・カー・ロシアの社長などを務め、2020年10月から現職です。

 カスタマーサービス出身からも解るように、CS-VESCの重要性をよく理解しているトップと言えるでしょう。

ボルボ・カー・ジャパン代表取締役社長・マーティン・パーソン氏
ボルボ・カー・ジャパン代表取締役社長・マーティン・パーソン氏

――日本ではクルマを買う時よりもクルマを買った後が大事だと言います。ボルボは輸入車の中でも熱心に取り組みを行なっているメーカーだと思っています。

マーティン:ボルボの考え方は「売る」だけでなく「アフターケア」を含めたトータルエクスペリエンスを大事にしています。私はカスタマーサービス出身なのでよく解ります。

――他の地域と日本の違いはありますか?

マーティン:一つは「買い方」ですね。欧州はカンパニーカーやリースも多いですが、日本は99%プライベートセールスです。カンパニーカーは会社から支給されますが、プライベートカーは自分でお金を出して買うので、アフターケアに対する要望はよりシビアです。

――日本人のボルボに対するイメージは高く、日本車からの乗り換えがスマートにできるブランドの1つだと思っています。

マーティン:それは安全、環境、デザインなど、ボルボの「バリュー」が日本人にフィットしているからでしょう。

――クルマは優れている、それに加えて売る人がシッカリすれば、販売はより高まる…と言うわけですね?

マーティン:実は日本市場の販売台数はワールドワイドで9位です。これもエビデンスの1つだと思っています。

――ボルボと言えば「2030年に100%BEV(電気自動車)メーカーになる」と宣言して話題となっていますが、それは日本市場も同じ考えですよね?

マーティン:その通りです。現状はマイルドハイブリッドとプラグインハイブリッドのみですが、直近ではこの戦略で販売は11%伸びています。私はパターンとして一度電動化を経験すると元(=ピュアな内燃機関)には戻れないと思っています。私もプラグインハイブリッドに乗っていますが、エンジンが掛かるとビックリしてしまうくらいです(笑)。となると、次のステップはBEVになると思っています。

――電動化シフトは着々と進んでいますが、その一方で日本市場はディーゼルの需要もまだまだあります。その辺りを全てやめてしまう潔さもボルボの凄さですよね。

マーティン:他のブランドは様々なチョイスを残しています。しかし、ボルボの生産台数は70万台と世界的には大きなメーカーではないので、今後の“道”はハッキリ選ばなければなりません。

――更にボルボが今後発売するEVは全てオンライン経由で販売…と発表していますが、今後ディーラーやセールススタッフの役割はどうなるのでしょうか?

マーティン:もちろん、今までとは変わりますが重要性は変わらないと思っています。今までのセールススタッフの役目はクローサー…、いわゆるネゴシエーションする人でしたが、これからはコーチ…ブランドバリューを説明する人になります。

実は現在もその傾向はあり、ユーザーは事前にオンラインで勉強してディーラーに行く時には車種や購入について既に決まっていることが多いです。つまり、我々がやろうと思っているのは次のステップに進むと言うだけです。ただ、テストドライブやアフターケアはクルマには必要な事ですよね?そこはオンラインからオフラインへと繋げます。

――つまり、オンラインの時代になってもディーラーやセールススタッフ…つまり「人」の重要性は何も変わらない…と?

マーティン:その通りです。パーソナルコンタクトはプレミアムブランドにとって重要な要素ですので、今後も残ります。

――つまり、オンラインの良さ、オフラインの良さをシッカリ分ける…と?

マーティン:サービスはオンラインではできませんからね(笑)。我々には全国100の販売拠点があるのが強みとなります。

――行きたくなるディーラー、居心地のいいディーラー、そういうお店とは長く付き合っていきたくなります。自分もボルボユーザーなので、その辺りはよく解ります(笑)。

マーティン:ボルボは1927年に設立されましたが、創業当初から「お客様にフォーカスしよう」がブランドのプロミスです。安全にも環境にも徹底してこだわる理由は、ズバリ「人」が中心だからです。

――その筋が通っているから、「次もボルボにしよう」と言うユーザーが多いと。今後の販売台数目標はどうでしょうか?

マーティン:去年は色々ありましたがポテンシャルはあると思っています。現在の日本市場の販売台数は約1.7万台ですが、2025年までに2.5万台を目指します。そしてそのうちの35%である9000台はBEVです。グローバルでは2025年にBEV比率50%が目標ですが、日本でその目標を掲げるのはなかなか難しいと思っています。

――ただ、日本はハイブリッドを含めた電動化はかなり進んでいる国だと思っています。

マーティン:それに関して異論はありませんが、1日の走行距離を含めて日本はBEVがフィットすると思っています。もちろん充電の不安はありますが、マインドセットも必要だと思っています。今はBEVが少ないので経験が少ないですが、これからグッと伸びるような気がしています。

――ちなみに日本市場におけるBEVはどのようなユーザーが想定でしょうか?

マーティン:ターゲットは従来よりも若くしたいと思っています。ただ、BEVは比較的ゆっくりな動きになるかな…と。我々も急激に変えようとはしていませんので。

――買い方の変化はどうでしょうか? ボルボはスマボをはじめとするサブスクなど、輸入車の中でも熱心ですよね。

マーティン:最近はサブスクが流行り始めているものの基本はリースの物が多いですが、我々の商品は“本当”のサブスクです。3か月でもキャンセル可能なので、若い人でも魅力を感じてもらえると思っています。

――更にボルボは今後発売するBEVは「レザーフリー」を発表しました。これもインパクトが大きかったです。

マーティン:現在日本で売られているボルボ車の80%はレザー(本革)で、これは世界的にも高いです。ただ、LCAの観点でCO2削減にはレザーも減らさないと駄目なので、それらを自然環境に優しい物に替えていくチャレンジも同時に進めます。ちなみにレザーフリー素材の進化も著しく、触感などを含めて本革に負けないくらいのレベルになっています。

――皆が求めているけど、替える。その姿勢が凄いと思います。

マーティン:今はそれほどではありませんが、これから急激に変わると思いますよ。高級車=本革ではない時代が確実にやってきます。

――そして、Googleとタッグを組んだインフィテイメントシステムも注目です。

マーティン:日本のナビ文化はある意味独自性が高いですが、今はGoogleを巧みに活用している人が多いです。となると、我々のシステムは優位性があると信じています。

――昨今、繋がるクルマが増えていますが、ボルボのそれは「超」繋がるクルマだと?

マーティン:そうですね。地図データの更新をはじめとするクオリティの高さはもちろん、他の機能も連動可能なので、まさにクルマがハブになるようなイメージです。

――このように見ていくと、この数年でボルボは本当に変わったと思います。以前はどちらかと言うとコンサバの代表(!?)のような感じでしたが、今ではトレンドセッターと言った感じすら覚えます。

マーティン:一度「やる!!」と決めたら早いのが今のボルボです。パワートレインを4気筒だけにした時、「絶対にアメリカが駄目になる」と言われました。180km/hリミッターを決めた時「ドイツでは売れない」と言われました。でも、実際はどうでしょうか? どちらの国でもシッカリと売れています。恐らく電動化に関しても同じだと思っています。ただ、従来のボルボの良さは一切を損なわずに…という所は守らねばいけません。

――つまり、プレミアムブランドは「継承」と「革新」のバランスが重要だと?

マーティン:ボルボは歴史あるブランドですが、今後の時代を生き残るためには変わらなければダメです。そこが今のボルボの強みの1つだと思っています。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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