トヨタ「水素エンジン車」初試乗! ガソリン車同等の「可能性」を秘めた実力とは
トヨタの水素エンジン車、世界初試乗の感想は?
すでにアイドリング状態でしたが、開発中のエンジンとは思えないくらい一定の回転数で安定。ギアを1速に入れて発進。僅かに「カリカリ」とノッキングのような音(実は高速燃焼による音とギアノイズ)がしますが、それ以外はガソリン車と何も変わらず。
2速にシフトアップして2000rpmくらいからアクセルを踏み込んでいくと、ガソリン車に対して「レスポンスの良さ」、「ターボラグの少なさ」など、むしろガソリン車よりも洗練された印象です。
ちなみに応答性は鋭くなっているのに、アクセル操作に対する反応はリニアと、何とも狐につまれたような不思議な感覚です。
回転をさらに上げていくと、ガソリン車だと3000~4000rpm付近で僅かに感じていたトルクの谷間が消え、よりフラットな特性に。さらに回せば回すほど力強さが増していく感覚に加えて、全開時のパワー感もガソリン車とほぼ同じでした。
ちなみに最高回転は6000rpmに抑えられていましたが、それを超えて回りそうな勢い。さらにこもり音が少なく雑味の少ない乾いたサウンドは、ガソリン車よりも心地よく感じました。
ちなみに車両重量はガソリン車に対して水素タンク追加などで100kg以上重くなっているはずです。
出力はガソリン車同等なので絶対的なパフォーマンスは落ちるはずですが、実際に走らせてみてそれほど力不足だと感じなかったのは、水素エンジンの強み。応答性やレスポンスの良さ、そしてよりフラットになった特性などが、そのように感じさせたのでしょう。
ガソリンエンジンのG16E-GTSはいい意味で野性味を感じさせる武闘派エンジンですが、水素エンジンは力強さやトルク特性はそのままに、まるで高精度エンジンのような洗練されたフィーリングがプラスされているように感じました。個人的にはガソリン車もこのようにアップデートしてほしいくらいです。
正直いうと、乗る前は未知のエンジンらしいラフな特性や未完成な部分があると思っていましたが、実際に乗るとそのような兆候は一切なく、いわれなければガソリンエンジンだと勘違いするほど自然な仕上がりだと感じました。ズバリ「普通って凄いね」と。
「何だ、水素エンジンって結構簡単にできてしまうんですね」と思った人、それは大きな間違いです。
短期間でここまで仕上がったのは、これまでの技術の積み重ね(直噴技術/インジェクター)とモータースポーツで鍛えることで実践的かつスピーディな開発がおこなえたこと、そして内燃機関の可能性を探り続けるエンジニアの情熱の三位一体によるものです。
実は試乗後にLEXUS/GAZOO Racingの佐藤プレジデントやエンジニアに素直な印象を伝えましたが、ホッとした表情を浮かべたのと同時に、「まだ誰も満足していませんので、まだまだ進化は続きます」という力強い言葉をもらいました。
つまり、ガソリンエンジン同等の性能を出すことは「進化の過程」に過ぎず、まだまだ上のレベルを目指すのでしょう。
といっても、エンジンだけ良ければOKではなく、タンク容量(テストカーの航続距離は50kmくらい)やパッケージの問題など、“クルマとして”の課題はまだまだ山積みです。
ただ、今のトヨタならばすべて克服すると思っています。そして、そんな時代に、今回の水素エンジン試乗の話をしてみたいものです。「あの時の挑戦が、今に繋がっているんだよ……」と。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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