ラリー形式のカーイベントなら密を避けられる!? 「スプレンドーレ伊香保」に見る「線踏み」の奥の深さとは
クラシックカーだからこそ楽しい「レギュラリティ・ラン」とは
「スプレンドーレ伊香保」に代表されるクラシックカーラリーは、もともとは「レギュラリティ・ラン」と呼ばれる、一般の公道を舞台としておこなわれるモータースポーツに分類される。
これは、第二次大戦前以来のアベレージスピード遵守型のラリーが、1960年代に現代のWRCに代表されるようなハイスピード競技に発展した際に、そこから枝分かれして独自の進化を遂げたものとされている。
この競技が昔からとくに盛んだったのは「ガーラ・レゴラリタ(Gara Regolarita)」と呼ぶイタリア。かつては、それぞれの時代の最新車両を使用したFIA(世界自動車連盟)公認のシリーズ戦もおこなわれ、高い人気を得ていたとのことである。
そして1980年代に、伝説の都市間公道スピードレース「ミッレ・ミリア」がクラシックカーイベントとして復活した際には、現在のレギュラリティ・ラン形式へとかたちを変えた上に、そののち日本を含む世界各国で開催されるようになったイベントにおいても、ミッレ・ミリアのレギュレーションが世界的な規範となっている。
こうして、現在のクラシックカー界で重要な地位を占めるようになったレギュラリティ・ランは、以下のようなルールのもとにおこなわれる。
今回のスプレンドーレ伊香保は1日のみで、走行距離も短いものだったことから省略されていたが、通常コースは最長でも60km程度の複数のセクションに分割され、それぞれの終点には「C.O.(Controlli Orari)」と呼ばれるゴールラインを設定。このC.O.ラインを超えるタイム差を、最大59秒の範囲内で競う。
●奥が深い「線踏み」とは
一方、各セクションの行程上では、競技の勝敗の最大の決め手となる「P.C.(Prove Cronometrati)」がおこなわれる。日本のエンスージアストの間で、レギュラリティ・ランのことが「線踏み」と呼ばれるのは、このP.C.こそがもっとも象徴的なものであるからにほかならない。
P.C.は、それぞれコース上に置かれたスタート/ゴールのふたつのライン(光電管やエアチューブなど高度なものもある)の間を、あらかじめ指定された規定速度にしたがって慎重に走る競技である。
クルマの前輪が第一のラインを踏んだら、オーガナイザーのセットした計測機器のカウントが自動的にスタートし、第2のラインを踏むまでのタイムを自動的に算出。規定速度による正確なタイムに近いエントラントから順に、ポイントが与えられるシステムとなっている。
P.C.区間はひとつひとつが独立したもののほか、複数が連続し設定されることも少なくない。この場合は、一区間のゴールが同時に次の区間のスタートとなることから、うまくこなすには相当なスキルが要求される。
そして上記のC.O./P.C.競技におけるペナルティが加算された結果、レギュラリティ・ランの総合得点が決定することになる。C.O.およびP.C.の規定時刻に比較してどれだけ離れているかを100分の1秒単位まで計測し、その差に応じたポイントが加算されてゆく。それが、この競技の基本システムなのだ。
数あるモータースポーツのなかでも、レギュラリティ・ランは通常の交通法規に従って一般公道を舞台としておこなわれるゆえに、その平均速度はおおむね35−50km/hほどに収まることになっている。
ただスピードを競う競技ではないがゆえに、良い結果を達成するためにはそれぞれのドライバー/ナビゲーターに、この競技ならではのスキルが必要となるのも事実である。
たとえばドライバーは、車種や年式によっては変速機のシンクロ機構すらないクラシックカーを操りながら、100分の1秒、あるいは1000分の1秒単位の正確さでラインを踏むためのアクセルワークやクラッチ操作を強いられる。
一方のナビゲーターも「コマ図」と呼ばれる、分岐ポイントとそこに至る距離だけを示した簡易型の地図を片手にドライバーの道案内をしながら、もう一方の手にストップウォッチを握って、PCではラインを踏む正確なタイミングをカウントダウンで伝えるなど、ドライバーに負けず相当な習熟度が要求される。
つまり、クラシックカー初心者にとってもっとも敷居の低いモータースポーツでありながら、同時にベテランエンスーにとっても満足できる「奥の深さ」がある。
日本国内でラリーイベントが盛況なのは、そんな理由があるからなのである。
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