トヨタの新型「リリーフカー」ってナニ? 投手をグローブで送り出す! 国内外で話題となった謎のモデルとは
東京2020大会の野球競技にて、中継ぎ投手が登場する際の乗り物に謎の「リリーフカー」が使用されたことが国内外で話題となりました。今回、「リリーフカー」の開発を担当したエンジニア、デザイナー、トヨタオリンピック/パラリンピック部担当者に独占インタビューをおこない、その正体を取り上げています。
謎のオリンピック「リリーフカー」の正体とは
東京2020オリンピック/パラリンピック競技大会が終わりました。
大会が終了した今も開催されたことの是非はわかりませんし、人によって色々な想いもあると思いますが、暗いニュースが多い昨今、我々の“心”を明るくしてくれたのも事実です。
筆者(山本シンヤ)はいくつかの競技をテレビで観戦しましたが、自動車業界に携わる者の性なのか、選手の活躍している脇でサポートをおこなうさまざまな乗り物に目がいってしまいました。
例えば、自転車競技で各国のサポートカーとして活躍した「カローラ・ツーリング(実は標準車にはない2リッターエンジン搭載)」、マラソン競技の先導者として注目された「Concept-愛i(なんと全固体電池を搭載するテスト車両だった)」、そして選手村の移動用として活用されたAutono-MaaS専用EV「e-Palette」などなど。
これらのモデルはオリンピックおよびパラリンピックのワールドワイドパートナーであるトヨタが提供しています。
その多くは事前にお披露目、概要もある程度発表されていたので “想定内”でしたが、野球競技を見ていた際に“想定外”のモデルが表れました。
オープンボディの黒い車体に丸型のライト、大きなグラブがモチーフのリアシート、フロアにはダイヤモンドが描かれた人工芝と、何ともレトロで野球感を上手にあしらったデザインの「リリーフカー」でした。
実はこのリリーフカー、米ヤフースポーツでは「今大会で最も注目を集めているひとつ」として注目されました。
「日本も負けていられない!!」ということで、今回はリリーフカーの開発をおこなったエンジニアの谷中壯弘氏、デザイナーの永津直樹氏、そしてトヨタオリンピック/パラリンピック部担当者への独占インタビューをおこないました。
――実はTVを見ていて「あのクルマは何?」というのが今回のインタビューの発端でした。
谷中:あのリリーフカーはワンオフのスペシャルモデルですが、実はベース車両が存在します。
それがオリパラをサポートする専用モビリティ「APM(アクセシブル・ピープル・ムーバ―)」です。
元々は来場者・大会関係者のライトワンマイルの「足」をサポートするモデルとして開発しました。
実は200台弱が納入されていますが、今回は無観客だったので一般の人が目にする機会が少なく……。
――どのような経緯で開発を?
担当者:リオ/平昌などでも移動支援はおこなわれていましたが、ゴルフカートの延長線のようなモデルで使い勝手・利便性は良いとはいえず……。
弊社にはそのようなモデルはラインナップしていませんでしたので、新規開発をお願いしました。
――開発する上でのポイントは?
谷中:基本仕様は3列で6人(1列目:運転手1人、2列目:3人、3列目:2人)乗車ですが、2列目を折りたたむとフラットな床になり、床下格納式スロープを用いてクルマ椅子のままでの乗車が可能です。
誰でも乗車が用意でスムーズな運営に貢献しています。さらに派生モデルとして救護仕様のストレッチャー搭載モデルも設定。こちらは熱中症対応などを想定したスポットクーラーも装着されています。
――どこかホッとするデザインに感じました
永津:歩行者と共存しながら走行のため威圧的にならないこと、そしてすべての人の「ラストワンマイル」が楽しくなるようなデザインを心掛けました。
ただ、無観客になってしまったので、それを見ることができなかったのが残念でした。
――ドアを付けなかったのは?
永津:近距離移動用ということもあり割り切っています。コンセプトは「エアリー(=風が抜けていく)」で、初期は「動くベンチ」、「動く床」からここまで練り上げてきました。ちなみに雨天時用にピラー内にはロールカーテンが内蔵されています。
――ファニーだけど本物感がある、真面目なトヨタらしさがデザインにも表れています。例えるなら、セラのような?
永津:実は私、セラはもちろんMR-Sやポルテなどのデザインも担当していました(笑)。
――メカニズムも新規開発ですか?
谷中:基本的なメカニズムは二人乗りの超小型EV「C+pod(シーポッド)用を流用しており、フロアは3列対応にするためにストレッチさせています。
バッテリーはフロア下に薄型リチウムイオンバッテリー(9.1kWh)を搭載、モーターはリアに搭載し後輪を駆動します。最高速は19km/h、航続距離は100kmとなっています。
――この低床フロアは、やはり電動車でなければ実現できなかったものですか?
谷中:そうですね。
――サスペンションは装着されている?
谷中:もちろんです。実際に乗った人から「乗り心地いいね!!」とご評価いただいています。
――同一プラットフォームを色々な用途にという意味だとC+podとAPMは兄弟関係にあるわけで、TNGA理論はここでも活きているということですか?
谷中:そうです。オリパラ専用車もトヨタの考え方は不変です。ちなみにナンバー取得も可能なスペックを備え、実際に取得しているモデルも存在しています。
――そんなAPMの派生モデルのひとつが「リリーフカー」であると?
担当者:そうです。色々な使い方を模索するなかで「リリーフカーも!!」というアイデアが生まれました。
世界にはリリーフカーの無い文化の国もありますが、ある意味「日本らしい」文化のひとつかもしれません。
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