なぜメルセデス・ベンツが10年後EV専業メーカーに!? 衝撃の中身と急速なEVシフトの理由とは
10年後のEVシフトは市場が求めるからこそ
しかし、メルセデス・ベンツの発表からは、日本とは違う、EVシフトへのシリアスさが感じられます。

リリースの最後に「この計画に基づき、メルセデス・ベンツはEVの世界でICE(内燃機関)時代と同様の企業マージンを予測している」とあります。これほどに前のめりの計画でありながらも、目指しているのは、現在と同様だというのに驚かされます。つまり、これほどの思い切った計画でないと、現在と同じ地位を保てないと考えているようなのです。EVシフトへの危機感とでもいえるでしょう。
もちろん、メルセデス・ベンツの首脳陣が、日本でのEV普及の苦戦を知らないはずがありません。しかし、日本と欧州ではEVシフトに関する見方や雰囲気が異なるのでしょう。今回の計画のベースには「2025年までに電動車の割合が50%、今後10年で完全にEVに切り替わる、新車販売の市場シナリオ」があるといいます。10年で、すべてEVに切り替わるなんて市場シナリオは、日本では、ちょっと考えられません。
また、大企業であればあるほど、小さな可能性であっても、危機の対策を怠るわけにはいきません。「きっとEVは普及しない」と侮って、もしも本当に急激なEVシフトが起きてしまったら、対応に遅れて会社が危機的な状況に陥ってしまうかもしれません。
水素と二酸化炭素を使ったカーボンフリーとなる新液体燃料「eフューエル」というエンジン車が生き残る技術が注目されていますが、まだまだ未知数というのも事実。その一点に賭けるにはメルセデス・ベンツという企業は大きすぎます。さらに2030年ではなく、もっと先の未来にはエンジン車がなくなってEVとFCVになるという予測は古くからあるものです。つまり、いつかはEVへとシフトするはずなのです。
それらのリスク回避や、将来を見据えて、メルセデス・ベンツは、あえて早めのタイミングでEVシフトする計画を立てたのかもしれません。もしも、市場のEVシフトが10年後よりも遅れれば、それにあわせてメルセデス・ベンツの計画も遅らせればいいというわけです。計画がないままオロオロするよりは、はるかにましでしょう。

ただし、今回のメルセデス・ベンツの発表にもあるように、基本には「市場の状況」があります。市場がEVを求めるからこそ、エンジン車が消えるのです。
逆にいえば、市場が求めなければ、10年後のEVシフトは起こりません。10年後にどうなるのかは、まさに「神のみぞ知る」といえるでしょう。
もちろん、メルセデス・ベンツだって未来のことはわかりません。しかし、可能性はわかります。そして、その可能性に対処するために、今回の驚きの計画を発表したのではないでしょうか。
Writer: 鈴木ケンイチ
1966年生まれ。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。特にインタビューを得意とし、ユーザーやショップ・スタッフ、開発者などへの取材を数多く経験。モータースポーツは自身が楽しむ“遊び”として、ナンバー付きや耐久など草レースを中心に積極的に参加。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを、分かりやすく説明するように、日々努力している。最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。






















