トヨタ「300系ハイエース」が万能過ぎ!? いつでも温かいご飯をGET! 究極の水素車とは

世界に1台のハイエースキッチンカー…実は走行面も考え抜かれていた!?

 今回、実際にグランエース(FCEVとディーゼル)とハイエースキッチンカーを運転しましたが、ハイエースキッチンカーは3トン超えの重量であることを忘れるくらいの発進時のレスポンスの良さと加速の力強さに驚きました。

 グランエースは、FCEVとディーゼル車と乗り比べをしましたが、単体では「結構いいよね」と思っていたディーゼル車が、FCEVに乗ると「ちょっと物足りないな」と感じてしまうくらいの差です。

――そういう意味では、ミライよりもFCEVの恩恵が大きいように感じましたが、その部分はどうなのでしょうか。

 浜田:出力的にはミライと同じですが、1トン以上重いので最終減速比で調整しています。

 狙っていたのは、首都高の合流でももたつかない加速で、それは実現できています。

――曲がる、止まると言った部分も非常に安心感が高かったですがこの辺りは?

 浜田:ナンバーを取得してリアルワールドを走りますので、ベース車そのままではなく、クルマに合わせてできる範囲での最適化をおこなっています。

――走るための土台はできましたが、ここからキッチンカーへの架装ですよね?

 浜田:モバイルオフィスは我々が見よう見まねでトライしましたが、キッチンカーはVRで世界観は作れてもリアルでは無理です。そこでキャンピングカーで実績のあるトイファクトリーにお願いをしました。

※ ※ ※

 今回、面白いと思ったのは、インテリアでメーターはミライ用やコンバートされ、プッシュスターターやH2O排出ボタンなどが追加されています。

 さらにシフトはダイヤル式なのにレバー式のサイドブレーキなど、努力の跡が随所に見られました。

トヨタ新型「ハイエース FCV キッチンカー」のボディ下部には2代目「ミライ」に使われている水素タンクが2本搭載されている
トヨタ新型「ハイエース FCV キッチンカー」のボディ下部には2代目「ミライ」に使われている水素タンクが2本搭載されている

 では、ハイエースキッチンカーの架装を手掛けたトイファクトリーでは、どのような苦労があったのでしょうか。

――トヨタから「FCEVでキッチンカーを作りたい」という話を聞いてどうでしたか?

 藤井:ついに商用ベースでFCEVの開発案件が出てきた「歓び」と、それに携わることができる「驚き」のふたつでした。

 我々はキャンピングカーの製造をおこなっていますが、キャンピングカーとキッチンカーは親和性があります。それは快適装備を使うには「電源」が重要です。

 電気周りは昔に比べると進歩していますが、それでもFCEVの1/10です。そういう意味でいうと、FCEVの電源供給能は革新的といっていいと思います。

 通常は別の発電機や外部から電源を貰う必要があり、それだと電力は非常に限られます。

 しかし、FCEVだとその悩みはすべて解消します。さらに火を使わないのでキャビンのレイアウトの自由度も増しますし、エアコンの効率も上がります。

 今回のハイエースキッチンカーでは、IH調理器、冷蔵/冷凍庫、電子レンジ、コーヒーメーカーなどを同時に使えるのは、我々の業界的には「あり得ない」ことです。まさにシェフがやりたいことがすべてできるはずです

――つまり、FCEVの電源供給能力の高さが、今までやりたいけどできなかった事を、すべて実現可能にしてくれるわけですね?

 藤井:今、デメリットに感じていることがすべてクリアになると思います。我々はキャンピングカーだけでなく、TV局の通信車やドクターカー、医療回診車など多岐にわたってクルマづくりをおこなっています。

 そのベースがFCEVになるというのはメリットしかありません。となると、今まで想像できなかったクルマの開発もできると思っています。

 例えば、働くクルマなら交通標識を表示するクルマや住宅密集地でも気にならない移動販売車など、アイデアはどんどん浮かんできます。

――今回、キッチンカーの架装するうえでトヨタとはどのようなやり取りを?

 藤井:キッチンカーといってもさまざまな業種があります。

 普通は的を絞ったお客さまのオーダーなので要望は頭に浮かびますが、トヨタさんは「キッチンカーを作ってほしい」だけだったので、正直悩みました。ただ、何度も提案をおこない話合いをしながら今の形に仕上げることができました。

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――今回、このような形でコラボレーションしたわけですが、今後FCEVハイエースの量産化は期待していますか。

 藤井:もちろんです。我々の業界では「夢のクルマ」です。恐らくキャンピングカー業界だけでなく官公庁や救急車やパトカーにまで影響を与えると思っています。

 浜田:今回の開発で得たことを、本当の量産につなげることが大事だと思っています。

 今回は我々の提案ですが、今後「水素からできる電気で、こんなこともできる!!」ということを感じてもらい、「それならば、このようなクルマはどうなの?」といった会話をしながら商品が仕上がることが、本当のゴールじゃないかと思っています。

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 今後、ますます加速する「カーボンニュートラルの実現」に向けた取り組みですが、トヨタはハイブリッド車や電気自動車(EV)だけでなく、水素を使ったFCEVと水素エンジンという技術革新も積極的に進めており、ユーザーにとってさまざまな選択肢が出てくることが楽しみです。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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