トヨタ「300系ハイエース」が万能過ぎ!? いつでも温かいご飯をGET! 究極の水素車とは
昨今、世界中の国や地域、企業が「カーボンニュートラルの実現」に向けたさまざま取り組みをおこなっています。そうしたなかで、トヨタは全方面の戦略のひとつとして水素技術を積極的展開。新たに開発された「ハイエース」と「グランエース」のFCEVとは、どのようなモデルなのでしょうか。
これからのFCEVはどうなる? 水素の未来を表す2台とは
2021年5月21日から23日におこなわれた「スーパー耐久シリーズ2021 第3戦 24時間レース」でルーキーレーシングからエントリーした水素エンジン搭載のトヨタ「カローラ スポ―ツ」が24時間を走り切りました。
その際、2台のFCEVモデルがチームの裏側で働いていたのです。その2台とはどのようなモデルなのでしょうか。
その2台とは、「グランエース」のモバイルオフィスカーと、日本未発売の「ハイエース(300系)のキッチンカーです。
これだけ聞くと「商用車をベースにしたカスタムカーでしょ?」と考えがちですが、2代目「ミライ」のパワートレインがコンバートされたFCEVの試作車なのです。
今回の富士24時間参戦の目的は、水素エンジンのマシンを走らせるだけでなく、モータースポーツの現場で「水素社会を実践してみる」というミッションも掲げられていました。
その証拠に、この2台とミライの計3台がルーキーレーシングのパドック周りのすべての電源を供給していました。
グランエースオフィスは、外観やサイズは市販車と同様ですが、後席の大空間を活用して通信機能を備えた移動オフィスに改造して、屋外・移動先などでの事務作業などの用途に対応するモデルです。
一方、ハイエースキッチンカーのベースとなったのは、オーストラリア仕様(右ハンドル)のハイエース(300系)で、2019年にフィリピンなどアジアやオセアニアに向けに発売されています。
ハイエースキッチンカーでは、FC技術を活かしてイベントや災害時に温冷の食事を提供する目的で開発されました。
この2台は、前述のとおりミライのFCシステムをそのまま用いているほか、水素タンクはミライの3本に対して、2台は2本搭載することで航続距離約400kmを実現しています(トヨタ測定値)。
今回、グランエースとハイエースの開発を担当したトヨタZEVファクトリー・商用ZEV製品開発部の浜田成孝氏と、キッチンカーの架装を担当したトイファクトリーの藤井昭文社長に、開発経緯などを聞いてみました。
――なぜ、グランエースとハイエースのFCEVを作ったのでしょうか?
浜田:ひとつは社内的な反省です。世界にさまざまな自動車メーカーが存在しますが、中国などは「早く、安く、上手く」やっている所が多いです。
それに対してトヨタはというと、弊社のエクゼクティブフェローの寺師(茂樹)は「不味くて、遅くて、高くて」と小回りが効かないことを危惧していました。
――確かにトヨタは大量生産を得意としますが、逆に少量生産や一品対応は苦手ですね。
浜田:仕方ないと思える一方で、そうはいっても世の中でそれを実践しているメーカーもあるのも事実です。
そこで「本当に我々はできないのか?」に対する挑戦です。
もうひとつは「燃料電池の価値」をより解りやすく知ってもらうためです。
1台のクルマを開発するのに5年から6年は掛かりますが、それでは未来はいつまで経ってもやってきません。
通常の試作車だと役員に乗ってもらって終了ですが、今回は実際にお客さま(=今回のケースだとルーキーレーシング)に見て、使って、感じてもらおうと。
現時点で課題がたくさんあることも認識していますが、それを承知でまずはモノとして作り上げてみようと考えました。
――すでにミライから電気の供給は可能でしが、ユーザー目線でいうと「セダンから電気を取る」というイメージが湧かないのも事実で、むしろ商用利用のほうが解りやすいかもしれません。今回はキッチンカーなので尚更だと思います。
浜田:電気の供給という部分だけでいえばミライも同じですが、「空間」と「電気」を掛け合わせたほうが価値を出しやすいと思いました。そこはやり始めて感じたことです。
――つまり、電気を取り出すメリットを活かして「何をする?」の部分ですよね。それを考えると、空間は広いほうがいい→商用車のほうが親和性は高い。そこでハイエース/グランエースがベースになったわけですね?
浜田:そうですが、実はFCEVの試作車はこの2台だけではありません。ひとつはマイクロバスの「コースター」がベースで、これは熊本の病院で使っていただいていますが、病院でしか使えなかった医療機器がクルマの中で使えるため「移動できる病院」として活用しています。
もうひとつは大型バス(SORA)とホンダさんの可搬型外部給電気/バッテリーを組みあわせた移動式発電・給電システム「Moving e」を構築して、実証実験をおこなっています。
――ちなみにグランエース(モバイルオフィス)とハイエース(キッチンカー)は、どちらが先に開発されたのでしょうか?
浜田:同時進行です。ただ、最初からあったアイデアはキッチンカーでした。以前から寺師に「イタリアのキッチンカーは災害時もインスタントではなくレストランのような温かい食事を提供してくれる」と聞いていました。
そこまで行かずとも、日本の冷凍食品は優秀なので、早く、温かい食事の提供ができるようにという考えです。
――モバイルオフィスはどうでしょう?
浜田:通信ができるメリットを活かし、災害時の移動対策本部(=情報を絶やさない)としての活用。さらに忙しいビジネスマンのために移動しながら会議も可能なスペースという考えもあります。
――豊田社長も、移動中の時間も会議に費やすくらい忙しいと聞いています。
浜田:ミニバンでZEV(ゼロエミッション・ビークル)をやろうとするとバッテリーでは厳しく、水素のほうが親和性は高いです。実際に使ってもらう上で、忙しい人(=豊田社長)にお願いするのが一番だと。
――といっても、グランエースとハイエースはFCEVが前提のクルマではありませんが?
浜田:上からは「中国ではFCEV用といわれなくても、少人数かつ短期間でやってしまうよ」といわれました。
ただ、我々はミライを量産化した実績はあります。そこで、ミライのパワートレインをグランエースとハイエースにパズルのように組み立てていきました。
搭載するうえで加工はしますが、基本は必要最小限でのコンバージョンです。言葉でいうと簡単ですが、色々な人に助けてもらいときには実務に入ってもらって仕上げました。
レイアウトは、エンジンのあった位置にFCスタック、トランスミッションがあった位置にモーターをレイアウトしています。
プロペラシャフトから先はベース車と同じです。企画時はeアクスルを使う案もありましたが、それでは検証に時間がかかるので、今回は実績あるアイテムのみで構成しています。
水素タンクは、左右から何mm以内に搭載というルールがありますので、それに従うとミライで使うセンタータンクをプロペラシャフトに沿わせて2本搭載。タンク容量はミライの5.6kgに対して5.2kgです。
――スペース的にはタンクをより多くレイアウトできそうな気がしますが?
浜田:スペース的には空いています。タンクの形状変更やタンクを伸ばすことで対応できるのですが、「早く、安く、上手く」を考えた結果ミライの実績を優先、たくさん積みたいと思う気持ちをグッと抑えました。
とはいえ、現状で300kmから400kmは走れる計算で、今回も愛知県のトヨタ本社から東富士研究所(静岡県裾野市)まで1タンクで普通に走ってきました。
――車両重量的にはどうですか?
浜田:エンジン、トランスミッション、燃料タンクを外し、FCスタック、モーター、バッテリーを追加していますので、ほぼイーブンに仕上がっています。
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