「ランボルギーニBMW」といわれた悲運のスーパーカー「M1」とは【THE CAR】

「NSX」よりも遥か以前に生まれた実用的スーパーカー「M1」

 ところが……。

 数台の試作車が走り出したのも束の間、ランボルギーニの財務環境が一段と悪化してしまう。

 結果、当初スケジューリングされていた1978年ジュネーブでの発表が事実上困難となってしまい、また、BMWからのランボルギーニ救済案もイタリア側に拒否されたこともあって、同年、ランボルギーニはあえなく破綻してしまう。

●「M1」は、完成度の高さが光る

正規輸入はなく、並行輸入での当時のM1の新車価格は2650万円だった
正規輸入はなく、並行輸入での当時のM1の新車価格は2650万円だった

 BMWはやむなく、プロジェクトをドイツ側に引き上げて、組み立てを独バウア社に委託。翌1979年春のM1正式発表に漕ぎつけた。

 しかし。一年の遅延はレース活動を念頭においたマシンにとって致命的な遅れであった。プロジェクト変更によって引き上がってしまった生産コストは販売価格の上昇も招いた。

 参加カテゴリーの変更や販売不振などが重なって、最早、M1は行き場を失ってしまったかに思われた。

 が、そこで編み出された起死回生のアイデアこそが、マックス・モズレーと組んだ、冒頭の“プロカー”シリーズだったのだ。これを足がかりに、ニキ・ラウダとロン・デニスのMP4プロジェクトが本格稼働し……、という歴史ストーリーはまた別のところで。

 今となってみれば、M社がサプライヤーの力を借りつつも、ほぼ独力でMモデルの始祖というべきスーパーカーを生産したことは、ランボルギーニに全てを託したよりも、実り多き経験だったように思う(この事件の主人公であるランボルギーニやジウジアーロが今揃って独VWアウディの傘下にあることは、歴史の皮肉であろう)。

 あまり知られていないことだけれども、特筆すべきは、M1に与えられた、ミドシップスーパーカーとしてのポテンシャルの高さである。

 ダラーラという経験豊富なレース好きエンジニアが基本設計を担当したというだけはある。

 そのことは、M1ロードカーをちょっとでも転ばしてみれば分かることだ。マシンのハンドリングレスポンスは、無駄な遊びなく、ソリッドに徹したもので、反応速度はシャープすぎず、常に適正内、手応えはいかにも自然で、まるでフロントアクスルを両手で抱え込んでいるかのようだ。

 前後の重量バランスに優れ、ひらりひらりとコーナーをこなす様子も、ミドシップカーならではのパフォーマンスだ。M1に乗ってみると、なるほど、12気筒ミドシップなんてものはロードカーとして規格外=不合理なのだな、と痛感する。

 それでいて、室内は実にシンプルで機能的、快適な空間を保っている。十分なラゲッジスペースまでリアに備わる。イタリアンエキゾチックとは一線を画すパッケージ思想を垣間みることができるだろう。いわば、モダンスーパースポーツの始祖、である。

 BMWは、ホンダ「NSX」に遡ること10年以上も前に、実用スーパーカーを世に問うていたというわけだ。

 このパッケージで、M88に倍の馬力(ノーマルが277bhpでグループ4は470bhp)を与えてくれていれば、小躍りしたくなるほどに楽しいスポーツカーになるはず。

 生産台数、市販400台弱、レースカー60台前後。その価値、高騰中だ。

* * *

●BMW M1
ビー・エム・ダブリューM1
・全長×全幅×全高:4360mm×1824mm×1140mm
・エンジン:水冷直列6気筒DOHC
・総排気量:3453cc
・最高出力:277ps/6500rpm
・最大トルク:33.0kgm/5000rpm
・トランスミッション:5速MT

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