「EVシフト」はなぜエコに繋がる? 電動化加速の背景にある様々な事情とは
必ずしもエコとは言えない電動車、なぜ推進?
電動車、とくにEVが今後普及するかどうかについては、現在でも多くの議論がなされています。
個人レベルでいえば、すでに成熟した技術であり社会インフラも整っているガソリン車と比べて、EVはまだまだ活用方法が限定されているといわざるを得ません。
逆にいえば、一定の条件が整っている人であれば、EVによって大きなメリットを得られるのも事実です。
このように、個人レベルの話で議論すると、最終的には「それぞれの事情による」となってしまうので、あまり意味のある議論にはなりません。
一方、社会全体のレベルで見ると電動化はメリットを生んでいるのでしょうか。
日本自動車工業会によると、2008年の電動車(HV/PHEV/EV/FCV)の国内販売台数は10万8518台でしたが、2018年には148万2231台と約14倍に成長しています。
全国地球温暖化防止活動推進センターが発表した、同時期のクルマなどによる運輸部門の二酸化炭素排出量を見ると、2008年度が23億1600万トンだった一方で、2018年度は21億400万トンとおよそ10%の減少が実現しています。
およそ10年の間でクルマによる二酸化炭素排出量は着実に減少していることを見ると、電動化が進んだことは、環境へも一定の好影響を与えたといえるでしょう。
しかし、電動車が販売台数にして約14倍に増えているのにもかかわらず、二酸化炭素排出量は1割程度しか減少していないと考えることもできます。
さらに、排出量が低下した背景にはガソリン車の技術向上による分も含まれていることを考慮すると、電動化の影響はさらに小さいともいえます。
また、ガソリン車に比べて、電動車は製造時の二酸化炭素排出量が多いという指摘もあります。
欧州自動車メーカーでは主流になりつつある考え方として「ライフサイクルアセスメント(LCA)」というものがありますが、これはクルマの生産から使用、そして廃棄までを含めたすべての時間軸を考慮した上での環境への影響を測るというものです。
例えば、電動車が増えることによって、バッテリーも同時に増えることになります。
しかし、化学物質を多く含むバッテリーの廃棄コストは、金属中心のエンジンに比べて高額です。
また、電動車の増加とともに増える電力使用量に対応するために、火力発電所で大量の化石燃料を燃焼させることになれば、社会全体で見てエコロジーとはいえません。
このように、視点によっては、電動車はガソリン車に比べて、すべての面で環境性能に優れているとはいえないのが事実です。
ではなぜ、日本をはじめとする多くの国が電動車の増加を支援する政策を出しているのでしょうか。
個々の国によって事情は異なりますが、ひとついえるのは、技術革新のポテンシャルです。
たしかに現時点では、市販が始まってから100年以上の歴史を持つガソリン車と、10年から20年程度の電動車では技術の成熟度が異なります。
しかし、逆にいえばそれは電動車にまだポテンシャルがあることを示しています。電動車、とくにEVの弱点である航続距離や充電インフラについては、時を追うごとに改善されていくことでしょう。

もうひとつ、とくに日本にとって電動化を進めなければならないのは、エネルギー安全保障という観点です。
産油国でない日本は、ガソリンの元となる原油のほぼ100%を輸入に頼っています。
さらにいえば、そのうちの8割以上が中東地域からの輸入です。日本は資源に乏しい一方で、世界第3位の電力使用国でもあります。
そのため、古くから原子力発電所の設置を進めてきましたが、2011年の福島第一原子力発電所事故によって、新規の原子力発電所を設置することは事実上難しくなっています。
したがって、今後も原油の中東依存は続くと思われますが、それにはさまざまな政治リスクがともないます。
「国家百年の計」という言葉があるように、100年単位で考えるならば、国としては早くから電動化を推進する必要があるといえます。
現在にわかに過熱している電動化推進は、政治や金融を含めたさまざまな要素が複雑に入り組んでおり、単にエコロジーを目指したものとはいえません。
われわれは、そうした背景を理解しつつ、ひとりのユーザーとして個々の事情に合ったクルマを選ぶのが正解なのかもしれません。
※ ※ ※
現実的にいえば、急にガソリン車が無くなることはないでしょう。一方で、10年単位で見れば、緩やかに電動化が進むことは確実です。
ガソリン車と電動車のどちらを選ぶかというのは個人の好みの問題です。しかし、それ以前に、次世代に向けて地球環境を守っていくことはすべての人々に与えられた責務であることを忘れてはいけません。
現在の電動化論争はそういう意味で、すべての人が考えなければならないことだといえるでしょう。
Writer: PeacockBlue K.K. 瓜生洋明
自動車系インターネット・メディア、大手IT企業、外資系出版社を経て、2017年にPeacock Blue K.K./株式会社ピーコックブルーを創業。グローバルな視点にもとづくビジネスコラムから人文科学の知識を活かしたオリジナルコラムまで、その守備範囲は多岐にわたる。







































