なぜ「クラウン」がセダンから脱却? SUV人気の裏でセダンが続々と廃止される理由
セダンの衰退と合わせるように国内の新車販売も低下
その一方で安全装備の充実などにより、クルマの価格は高まりました。
2000年頃には、1.5リッターエンジンの「カローラセダン」が約150万円で用意されていました。1.8リッターの「コロナプレミオ」は約180万円、2リッターのマークIIは約240万円です。「クラウン2.5ロイヤルサルーン」は約340万円でした。

それがいまでは購入可能な車種が大幅に変わり、150万円で選べるのはカローラセダンではなくN-BOXのような軽自動車です。
180万円はトヨタ「ヤリス」やホンダ「フィット」のノーマルエンジン車、240万円はトヨタ「C-HR」などのコンパクトSUV、340万円ならトヨタ「ヴォクシーハイブリッド」という具合です。
いまのクラウンはもっとも安価なグレードでも489万9000円で、売れ筋の「ハイブリッドRS」は531万9000円ですから、20年前に比べて約200万円高くなっています。
ここまでクルマの価格が上昇して、所得は逆に下がると、小さなクルマに乗り替えるユーザーが増えます。
最近では新車として売られるクルマの37%が軽自動車で、次に多いのがコンパクトカー(26%)です。ミニバンは15%、SUVは13%で、セダンは約8%まで下がりました。
セダンの衰退と足並みをそろえて、国内の販売台数も低下。最近は1年間に460万台から520万台で推移しています。
1990年は前述の778万台ですから、セダンの衰退と併せて国内市場全体が30%から40%低下しました。
200万円前後の価格帯で、日本のユーザーから歓迎されるセダンや趣味性の強いクルマを積極的に開発していたら、国内市場にはもう少し元気があったかも知れません。
現時点では、セダンに代わりになるカテゴリとして、SUVが注目されています。
SUVの居住空間は、セダンとミニバンの間に位置しており、車種によってはコンパクトな3列目シートを装着しています。
子育てを終えて車内の広いミニバンから乗り替えるときも、セダンやワゴンでは天井が低くて窮屈ですが、SUVなら不満を感じません。
さらにSUVは、ミニバンに比べると外観に存在感があってカッコ良く、走行性能も高めやすいです。
そのため、セダンの売れ行きと車種数が減る代わりにSUVが増えました。セダンの穴を埋めるのがSUVともいえるでしょう。
このように考えると、次期クラウンをクロスオーバー化する趣旨も理解できますが、セダンとSUVの機能を混同することはできません。
セダンはSUVに比べて重心が低く、後席とトランクスペースの間には骨格や隔壁があって、ボディ剛性も高めやすいからです。
最良の安全性や快適性を確保するにはセダンボディが最適です。
そしてクラウンは売れ筋価格帯が500万円から600万円なので、優れた乗り心地と静粛性、走行安定性、安心感の伴う上質な室内空間が不可欠。
そうなるとセダン以外のボディスタイルで、最良のクラウンを開発するのは困難でしょう。今後もクラウンには、セダンの価値を追求して欲しいです。
ちなみに最近はクラウンのユーザーが高齢化しているので、現行型は若返りを図りました。
内外装や運転感覚がスポーティになり、「ロイヤルサルーン」と「マジェスタ」は廃止しています。そのために売れ行きが下がりましたが、今後もセダンボディを継承しながら修正を加えれば良いでしょう。
逆にクロスオーバーに変更するなら、クラウンをマークXやプレミオ&アリオンと同様に廃止した方が潔いです。100年に1度の変革期に「クラウン時代のトヨタ」に別れを告げ、新しい世界へ踏み出すわけです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。







































