補助金や税制面で優遇も日本はなぜ「次世代車」人気ない? EVや燃料電池車が普及しない理由とは

本格的電動車の普及に向けて必要な意識改革とは

 ではもう一歩ユーザー寄りの視点で、PHEV、EV、FCVといった次世代車の普及がなぜ遅いのかを考えてみましょう。

 ユーザーが電動車を選ぶ大きな理由は、やはり燃費の良さでしょう。

 たとえばRAV4では、2リッターガソリン車(2WD)がWLTCモードで15.8km/Lなのに対して、2.5リッターハイブリッド車(2WD)が21.4km/Lと、エンジン排気量が上がっても燃費は走行距離で1.35倍も改善する一方で、価格は1.22倍の334万3000円(消費税込、以下同様)となります。

 価格差はあっても下取り価格の優位性なども考慮し、ユーザーの間では「ハイブリッド車はもはや常識」という価値観が浸透してきました。それが、前述のような国内ハイブリッド車シェア4割という数字として現われています。

 使い勝手についてもガソリン車と基本的に何も変わらないところがハイブリッド車の魅力です。

 それが一歩進んで、外部から充電する(プラグイン)する行為が増えると、確かにEVモードでの走行距離は増えるものの、RAV4 PHVはエントリーモデルでも469万円となり、ハイブリッドの1.4倍とかなり高価です。

 後輪もモーター駆動となる四輪駆動車であることも魅力で、現在(2021年2月上旬)は「新規搭載のバッテリーの生産能力を大幅に上回る注文があり注文の一時停止」(トヨタ)が続くほどの人気ですが、例え購入補助金や税制優遇があっても、庶民の車としてはかなり高価なプレミアムカーというイメージが先行します。

 RAV4に限らず、多くのユーザーはまだPHEVまで手を伸ばさず「ハイブリッド車で満足するお客様が多い」(複数ブランドのディーラー関係者)といいます。

 このプレミアム性という観点では、輸入車の場合「実際はプラグイン機能をほとんど使わず、あくまでも最新型の最上級グレードという位置付けで購入するお客様が多い」(欧州系メーカー関係者)という声もあります。

 つまり、庶民の日常生活においては、高価格なPHEVに対する必要性や必然性がまだ弱いのだと思います。

 こうしたなかで注目されるのが、PHEVをキャンプや災害時の電源として活用する動きです。エクリプスクロスPHEVのテレビCMでも、その冒頭に100V/1500W外部給電を強調しています。

トヨタ「MIRAI」
トヨタ「MIRAI」

 また、トヨタはプリウスPHVやMIRAI、日産は「リーフ」を活用して、災害時に各地ディーラーが連携して給電支援をおこなう活動を全国に広げています。

 もしもの時の非常用電源として、本格的な電動車に対する庶民の必要性が今後、さらに高まる可能性があると感じます。

 次に、ディーラー目線でEVを考えてみます。

 リーフや三菱「i-MiEV」など、ユーザー側がEVという商品に対する認識をしっかり持って、自分の生活スタイルをEVに合わせることができる、いわゆるコアユーザーに対しては、ディーラーとしても対応しやすいというのが実情です。

 一方で、こうしたコア層からさらにユーザーの輪を広げようとすると、ユーザーだけではなくディーラー側も新たなる対応が求められます。

 そうしたなかで、マツダがMX-30 EVモデルの日本導入を機に新しい営業体制を敷きます。

 マツダの国内営業担当執行役員の田中浩憲氏はオンラインでのメディア向け商品発表会で、ユーザーのEVに対する現状について、「充電に不安がある」「バッテリの性能的に、まだまだ不安」「まだ車種数、魅力的な選択肢が少ない」「値段はまだ高いんじゃないの?」、そして「今、EVを買ってもいいのかな…?」といったユーザー目線での言葉を引用しました。

 こうした不安を解消するため、マツダは1DAYモニター試乗、購入前購入後のEV専用ダイヤル(デスク)、そして車載のマツダコネクテッドサービスを活用したバッテリーの優しい使い方のアドバイス「バッテリーケアアドバイス」(2021年秋導入予定)を実施します。

 さらに、購入3年後の残存価値を55%とする残価設定ローン・マツダスカイプランを用意したと、田中氏はマツダのEV参入に対する意気込みを強調しました。

 メーカーが用意した、このような各種販売ツールをディーラーがいかに使いこなすのか。EVを含めた本格的な電動車をさらに普及させるには、ユーザーとの直接的な接点であるディーラーの、本格的な電動車に対する意識改革が求められます。

 菅総理は2021年1月、通常国会・施政方針演説で「2035年電動車100%」を明言しました。日本市場の本格的な電動化は今度どのように進むのか、各地の現場の声を引き続き拾っていきたいと思います。

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。

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