電気で走るフィアット「500」は、人生を明るく照らすシティコミューターだ!

二酸化炭素排出規制の強化に伴い、一気にEV化へシフトしつつある自動車業界だが、文化遺産といえるクルマを後世に残す活動の一環としてEV化を進めているプロジェクトがある。フィアット「500」を現代の技術でEV化したレストモッド版「500EV」は、日常で使える足グルマとなるのか、嶋田智之氏がインプレッションする。

エンジンでもモーターでも、チンクを後世に残そう!

 あらカワイイ! だとか、おっ雰囲気あるじゃん! だとか。

 そんなふうに見る人の気持ちをふんわり柔らかにして、一瞬でなごませちゃう不思議なパワーを持つクルマ、「ヌォーヴァ・チンクエチェント」こと2代目フィアット「500」。長さは3mたらずで幅は1.3mほどと車体は軽自動車より遙かに小さいのに、存在感はスーパーカーにだって負けてない。ルパン三世の愛車でもある。だから名前は知らなくたって姿くらいは知ってる、という人も少なくないだろう。そしてその中には「ちょっと乗ってみたいかも」なんて思ってる人も、結構いるんじゃないだろうか?

コーナーで意外なほどの軽快なターンを見せるスポーティなフットワークは、間違いなくチンクエチェントならではのもの
コーナーで意外なほどの軽快なターンを見せるスポーティなフットワークは、間違いなくチンクエチェントならではのもの

 ファンからは単に「チンクエチェント」、あるいは親しみを込めたニックネームとして「チンク」と呼ばれるこの小さなクルマは、車齢的にはもはやクラシックカーといえる領域にある。なにせ最初の1台が街を走りはじめたのは1957年、最後の1台が街に飛び出したのが1977年。

 第2次世界大戦後の復興の流れで、高価なクルマが買えずにスクーターをアシにするしかなかったイタリアのフツーの人達に何とか手が届く乗用車を、とフィアットが企画したのがこのクルマなのだ。

 ダンテ・ジアコーサという天才的な技師兼設計者が生み出したのは、極めて無駄がなくシンプルで、けれど驚くようなアイデアがあちこちに盛り込まれた、とても凡庸とはいえない実用車だった。イタリアの人達は諸手を上げて歓迎し、あらゆる街に次から次へと自然に溶け込んでいき、チンクエチェントは国民車のような存在になった。イタリア人なら誰もがひとつぐらいはチンクエチェントにまつわる想い出がある、と今でもいわれるほどだ。

 そういうクルマだからして、今も世界中にチンクエチェントを愛する人達はたくさんいる。構造的にシンプルだしパーツ点数も少ないから、しっかり整備されていれば同世代の他のクルマ達より故障しづらいという傾向もあって、実用できるクラシックカーとして日々を楽しんでいる人達も、意外や多い。

 ただし現代のドライバー達にとって、ハードルが高い部分もなきにしもあらず、だ。まず、トランスミッションはノンシンクロの手動式のみだから、MTを扱える人じゃないとダメだし、さらにはノンシンクロのクセに合わせた運転ができないとミッションを長持ちさせられない可能性もある。

 そして古いクルマだから購入するときにはしっかり個体を吟味する必要があって、コンディションの良否を見極められないと後につらい想いをするかも知れない、ということ。そしてエンジンが空冷直列2気筒の499.5cc(初期は479ccで最後期は594cc)、パワーは基本18ps(後期の594ccでも23ps)。加速は鈍いし、スピードもない。現代の交通環境に合わせて走るのは、なかなかの冒険なのだ。

●AT限定免許でも運転できるチンクエチェント

 ところが今回ここに紹介するチンクエチェントは、それらをマルっとクリアできてるクルマだった。世界でも稀なフィアット500専門のミュージアム、名古屋のチンクエチェント博物館がプロデュースする「フィアット500EV」。クラシック・チンクエチェントの電気自動車だ。

 チンクエチェント博物館は、フィアット500を心から愛してる人達による私設博物館。チンクエチェントという稀代の名車を未来に向けて保護・保存し、活き活きと走らせ続けていくということを理念に、幅の広い活動をおこなっている。そんななかから生まれたのが、チンクエチェントを電動化する、という発想だった。

 今すぐ内燃機関のみを動力源にするクルマが走れなくなるわけじゃないけれど、時代がEV優位な方向に傾いているのは確かな事実。時代が移り変わってもチンクエチェントを生き残らせていくためには、EVへのコンバージョンはひとつの可能性を作り出すんじゃないか? 根底にあるのは、そういう時代を見据えた考え方だ。

 それに加え、マニアには好ましいものであるにせよ一般の人にはちょっと厄介かも知れないチンクエチェント特有のクセのようなものを、EVにすることでクリアにすることができる。クラッチ操作が必要なくなるから、AT限定免許の人でもドライブできる。つまり、より多くの人にチンクエチェントというクルマと暮らしてもらうことができる、ということも大きい。もちろん、やってみたら楽しそう、ということもあったことだろう。

 メンバーの全員がチンクエチェントに精通し、イタリアにも太いパイプを持っている。現地のチンクエチェントのスペシャリスト達とも長らく良い関係にある。チンクエチェント博物館は、これまでもそうした現地のスペシャリスト達の眼鏡に適った良好な状態を保つ個体や、スペシャリスト達がウィークポイントに手を入れたりフルレストアしたりしたコンディションのいいクルマを厳選して、日本のユーザーに届ける活動もしてきている。そこに関しては、また改めて紹介する機会があるだろう(というか間違いなくあるのでお楽しみに)。

 そして、これはその電気自動車バージョン。クルマの内外装やシャシ周りなどをフルレストアし、フロントの燃料タンクの位置にリチウムイオンバッテリーを、リアのエンジンの部分にイタリアのニュートロン社製EVコンバージョンキットを組み込んだチンクエチェント。それをイタリアで製作して日本でも走らせよう、というプロジェクトだ。

【画像】古くて新しい電動チンクエチェントとは(13枚)

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