ポルシェ的節約大陸! オンボロ「944」で英国から南アフリカまでの2万1000kmの旅
さらに事態は深刻に! 果たして「944」はゴールできるのか?
旅はここから、比較的に緑の多いエチオピアへと続き、そしてケニアとの国境に着いた。そこでクルマとドライバーたちは、あらかじめ予想していたとはいえ、旅の最大の試練に直面することとなった。
モヤレからマルサビットへの道は、ケニアとソマリアの係争地である危険な国境をまたいでいて、暴力的な氏族間の小競り合いや密輸が絶えることのない無法地帯なのだ。
●危険な無法地帯で置き去りにされた「944」
ベンは語る。「本当にひどい500kmの道で、もちろん止まっちゃいけない。まして故障なんて論外だ。僕らはケニア軍の護衛と一緒にコンボイを組んだんだけど、2年ぶりの雨が降ってきて道はまるでスープのようになってしまった。僕らは巨大な轍(わだち)に手間どってトラックに着いていけず、とうとう、山賊が出没する氏族紛争地帯の真んなかに置き去りにされてしまった」
ポルシェは泥のなかを突き進んだが、アンダーフロアは轍だらけ岩だらけの道から打撃を受けた。マルサビットで944は損傷した燃料ポンプの修理を受けた後、この旅の危険な部分のファイナルセクションを終えるため、目的地から8000km離れた赤道上の都市ナンユキを目指して出発した。
ベンによれば、そこから数日は比較的トラブルがなく、ウガンダとタンザニアを通過した際には、障害といえばローラのパスポートが強盗に奪われたことくらい。ここまでにクルマの総走行距離は35万kmを超え、少なくともこのうち1600kmはオフロードだった。
マラウイやザンビアではどこへ行っても、ますますボロボロになった1980年代のスポーツカーを見た人たちの困惑と興奮とに出迎えられた。ボツワナとナミビアを経て、映画のように不気味なスケルトン海岸、そして旅の最後の大きな挑戦であるナミブ砂漠へと至った。
「僕らがナミブ砂漠を渡りはじめたとき、太陽が沈みかけていた。でも、誰も今、僕らを停めることはできないって感じていた。約65km/hで走っていた時にボールジョイントのひとつが破損してしまい、スペアもなかった。だからラチェットストラップとケーブルタイを使って無理やり固定することにしたんだ」とベンはいう。
この応急処置は闇が迫ってくるなかで、何度も失敗した。南大西洋の沖合で強力な雷雨が吹き荒れるなか、ふたりは944の車内で夜明けまでぐっすり眠り、それから再びトライした。
8回目の試みでようやくボールジョイントを固定でき、彼らは時速30km/h弱で砂漠から這い出し、8時間かけて舗装路を見つけてスピードを上げることができたのだった。にもかかわらず944は60km/h少々出すのがやっとで、ケープタウンまでの残り1100kmを走破するのにさらに2日かかることとなった。
「それは劇的なフィニッシュで、クルマはヨタヨタとゴールラインを越えたよ」とベン。
「でも、やったんだよ。イギリスを出てからおよそ62日後、2万1000km以上、26の国と5つの大きな砂漠を走りきったんだ。ケープタウンから80kmほど北にある丘の斜面を越えてきて、地平線上のグレーのしみのように小さなテーブルマウンテンを目にしたその瞬間、僕らは、僕らを止めるものは何もないんだってことを理解できた。アフリカ大陸を走破できると思えるスポーツカーは多くはないけど、944のエンジニアリングの奥深さは、僕らにそれが可能だと信じさせてくれた。そして僕らはやったんだ」
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