トヨタ「アルヴェル」は8倍!? 姉妹車で「売れる・売れない」差が付く訳
日産やホンダでもミニバンに販売格差が!?
全店が全車を扱うと、売れる車種は販売台数をさらに伸ばし、不人気車はユーザーを奪われて落ち込みます。
日産やホンダは、10年以上も前に全店が全車を扱う体制に移行したので、アルファードとヴェルファイアのような姉妹車はすでに存在していませんが、やはり販売格差が大きく広がっています。
日産の場合、ミドルサイズのセレナはミニバンの主力車種として堅調に売れていますが、高級ミニバンの「エルグランド」の販売は大幅に低下しました。
エルグランドは2020年10月に比較的規模の大きなマイナーチェンジを受けたので、今後は売れ行きを伸ばす可能性もありますが、現時点ではセレナとの間に22倍の販売格差があります。
セレナは標準ボディが5ナンバーサイズのミニバンでは、3列目シートがもっとも快適です。シートアレンジも多彩で、3列目を左右に跳ね上げると、自転車などを積める広い荷室が広がるなど、ミニバンの価値を追求しました。
対するエルグランドは、3列目に座ると膝が持ち上がった窮屈な姿勢になります。さらに、3列目の格納はシートを前側に倒して畳むタイプとなり、荷室が広がっても床面がシートの厚みで高くなり、フラットな状態にできないことから自転車などは積みにくいです。
エルグランドは価格が高い割に、セレナに比べて実用性が乏しく、売れ行きでも差を付けられました。
そして近年の日産は売れ筋車種が限られ、国内の販売力がセレナ、「ノート」、軽自動車に集中しています。日産の全店がセレナの販売に力を入れた結果、エルグランドとの格差が拡大した事情もあるのです。
同様のことがホンダのミニバンにも当てはまります。
2020年10月の登録台数は、「フリード」が7849台、「ステップワゴン」が3133台です。かつてのステップワゴンはミニバンの人気車でしたが、いまはフリードとの間に2倍以上の販売格差があります。
2020年11月6日にマイナーチェンジした「オデッセイ」は、7月から9月の台数は500台から900台と、フリードの10%程度しか売れていません。
この背景にはホンダのブランドイメージもあるでしょう。昨今のホンダ車の売れ行きを見ると、軽自動車の「N-BOX」が国内で販売されたホンダ車全体の30%に達しており、ほかの軽自動車も含めると、その比率は50%を超えます。
そのためにホンダのブランドイメージは「小さなクルマのメーカー」になり、N-BOXと「N-WGN」「フィット」、フリードを合計すると、国内で売られるホンダ車の70%に達します。
フリードのデザイン性や実用性が高く、商品力で好調に売れていることも事実ですが、軽自動車とコンパクトな車種を中心としたホンダのイメージも大きく影響しているといえます。
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ミニバンはいまでも売れ筋のカテゴリで、競争も激しいですが、競う相手は他メーカーのライバル車だけではありません。
むしろ自社製品同士の競争、いい換えれば、どの車種の販売に力を入れるかで勝敗が左右されるというわけです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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