日野が発表「プロジェクトZ」っていったい何? 大型トラックの電動化が進む訳とは
環境規制への対応以外に「ESG投資」という側面も
それにしても、なぜこのタイミングで、アメリカの中型・大型トラック電動化が加速しているのでしょうか。理由は大きくふたつあります。
ひとつは、米カリフォルニア州環境局による、ゼロ・エミッション・ヴィークル(ZEV)規制です。
ZEV規制といえば、1990年に施行され、同州内で一定数以上(何度か改訂)の新車を販売する自動車メーカーに対して、事実上の電動車販売台数規制をするものとして世界に周知されてきました。
ZEV規制の中国版として、2019年から施行された新エネルギー車(NEV)規制は、中国の国立自動車研究所とカリフォルニア州環境局が協業して開発したものです。
つまり、ZEV規制はこれまで、世界の電動車の研究開発に極めて大きな影響を与えてきました。
そのZEV規制を2024年から中型・大型トラックにも適用するというのです。
大枠について、2020年6月に公表されました。EV販売台数規制は段階的に引き上げられ、2035年までには、クラス8など大型トラックで75%、クラス4や5など市街地での配送トラックでは100%のEV化を目指しています。
ただし、トランプ政権は燃費や電動化政策について、現在の連邦規制とZEV規制のダブルスタンダードの状態を見直し、今後は連邦規制に統一させるとの意向があり、カリフォルニア州と意見が対立しています。
そのため、トラック版ZEV法についても、また先日発表のあった「2035年までに州内でのガソリン・ディーゼル新車販売禁止」についても、11月大統領選挙によって情勢は大きく左右されるでしょう。
そして、ふたつめの理由が、ESG投資です。
企業の評価を売り上げ高や利益率などの業績だけではなく、環境・社会・ガバナンスに対する企業姿勢を投資の対象とする考え方です。
産業界では、とくに物流事業でESG投資が重要視される傾向が強く、これは近年、日本でも起こっている現象です。ヤマト運輸や日本郵便がEVデリバリー車の導入を進めているのも、ESG投資の影響が強くあります。
このように、アメリカではトラック版ZEV規制とESG投資のダブルパンチで、トラックEV化が加速しているのです。
日本では、乗用車でもトラックでも、国によるEV販売台数規制が実施される兆候がまだないため、大型EVトラックの本格的な量産は当面先になるでしょう。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
EVとFCの圧倒的違いはなんといっても、充電時間と充填時間の差だろう。商用車は、都市中や街中だと設備費が安いEV、都市間長距離輸送ならFCみたいな、使い分けになるのではと期待。