なぜ突如「プリウス」低迷? 看板車が不調でもトヨタが安泰な理由とは

プリウスの販売台数が減少した理由とは?

 プリウスの人気が下がった一番の理由は商品力です。現行型は2015年の発売直後は堅調に売れましたが、先代型に比べると、早い段階で販売が下がり始めました。

 その理由のひとつに個性を強めすぎた内外装のデザインにあったので、2018年末には造形を相応に変えて通信機能も加えました。

 このマイナーチェンジによって2019年4月から7月は前年よりも多く売れましたが、同年後半には再び下がります。本質的に人気が長続きしません。

プリウスと競合するといわれるトヨタ「カローラシリーズ」
プリウスと競合するといわれるトヨタ「カローラシリーズ」

 しかも2019年9月にフルモデルチェンジを受けたカローラは、プリウスと同じプラットフォームを使い、1.8リッターエンジンをベースにしたハイブリッドも選べます。

 WLTCモード燃費は、カローラツーリングの「ハイブリッドS」グレード(265万1000円、価格は消費税込、以下同様)が29km/L、プリウスの「S」グレード(265万5000円)は30.8km/Lです。

 燃費数値、価格ともに両車はかなり近いです。設計はカローラが約4年新しいので、プリウスはカローラに少なからずユーザーを奪われました。

 この点について販売店では以下のようにコメントしています。

「新型カローラでは、ワゴンのツーリングが人気です。先代プリウスを使うお客様が、新型カローラツーリングハイブリッドに乗り替えることも多いです。その理由として、設計の新しさのほかに、デザインの違いも挙げられます」

 プリウスの外観は、マイナーチェンジ後も個性的で好みが分かれます。その点でカローラツーリングは、荷室の使い勝手など同等以上の実用性を備えながら、外観も幅広いユーザーに好まれる形状です。

 そのためにプリウスからカローラツーリングへ、という乗り替えが生じました。

 2020年に入るとライズも売れ行きを伸ばし、カローラも堅調で、プリウスが一層下がりました。4月以降はヤリスも加わり、プリウスの下降傾向が加速しています。

 この過程で見られるのはトヨタ車同士の争いです。トヨタ車の小型/普通車市場に占めるシェアは、常に48%から50%です。そうなるとカローラ、ライズ、ヤリスといった新型車が売れ行きを伸ばすと、ほかの車種が減ります。その代表がプリウスです。

 新型車の登録台数が丸まる上乗せされないのは、顧客の数と販売力に限りがあるからです。前述の通りカローラツーリングが好調に売れると、プリウスからの乗り替えも生じるために顧客を奪われます。

 販売力も同様で、カローラやライズに追われると、プリウスの販売促進に費やせる手間と時間が減ります。

 2020年5月から本格的に始まったトヨタの全店/全車扱いも大きな影響を与えました。今までは、トヨタ店やトヨペット店のユーザーが、プリウスからカローラ、あるいはヤリスに乗り替えるには、基本的には販売店を変える必要がありました。

 しかし、いまは全店で全車を買えるので、車種選びも自由です。この影響もあって販売格差が拡大しました。アルファードと姉妹車のヴェルファイアも、2020年8月には、6倍の大差を付けてアルファードが好調に売れています。

 以上のようにプリウスの販売が下がった背景には、現行モデルの商品力が低下したこと、トヨタの新型車投入、小型/普通車市場におけるトヨタの寡占状態、全店/全車扱いへの移行など、複数の「トヨタの事情」が影響しています。

 他メーカーの人気車がプリウスの需要を奪ったわけではありません。

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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