なぜ車名に「クロス」増えた? 十字の意味ではない… SUVに多数採用する理由とは
世界中でSUVジャンルが人気となっています。また、SUVに分類させなくとも軽自動車やミニバンといったほかのジャンルでもSUVテイストを取り入れたモデルも続々と登場。そのなかで、最近の傾向として車名に「クロス」を入れているモデルが多いのですが、なぜ揃ってクロスを採用するのでしょうか。
なぜ最近のクルマには「クロス」が採用されるのか
2020年8月31日にトヨタからコンパクトSUVの「ヤリスクロス」が発売されて話題になっています。トヨタのタイ法人から同年7月には「カローラクロス」が発売されていたり、気づけば国産車でも輸入車でも、「クロス」という言葉の入った車名が非常に多くなっています。
そもそも「クロス」ってどんな意味なのでしょうか。
クロスはそのまま「十字」という意味ではなく、元はといえば「クロスカントリー」または「クロスオーバー」という言葉にさかのぼります。
クロスカントリーは、スキー競技や自転車競技などほかのジャンルのスポーツでも使われる言葉で、草原から森林、山岳地帯など様々な地形を走り抜けることです。
そこからクルマでは、あらゆる地形に対応したオフロード車のことを指すようになりました。ジープやランクル、スズキ「ジムニー」などが代表で、「クロカン」と略して呼ばれることも多いです。
しかしクロスカントリーは本格的なオフロード車のことで、今ではあまりメジャーなジャンルではありません。
日本ではバブル期にアウトドアブームとともに、「RV(レクリエーショナル・ヴィークル)」と呼ばれるクルマが続々と登場し、やがてそれらは「SUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)」という言葉でまとめられるようになりました。
SUVという言葉も定義が幅広いのですが、ロードクリアランス(最低地上高)が高くて、セダンやクーペやミニバンといったほかの車種よりも悪路走破性が強化されているのが共通の特徴です。
1990年代までは日本でも三菱「パジェロ」を代表に人気を博しましたが、とはいえボディが大きく燃費も悪く、街乗りなどデイリーユースでは使いにくい、娯楽性の高いクルマという存在でした。
この時期、1993年に登場したホンダ「クロスロード」が、現代の文脈で「クロス」という言葉をモデル名に採用した最初のクルマになります。クロスカントリーと舗装路の両方で活躍するというニュアンスが込められているのが分かります。
次に、クロスオーバーという単語は、「河川や境界を渡って越える」というのが元の意味で、横断歩道や交差点のことも指しますが、クルマの場合はいくつものジャンル、地形、用途に複合的に対応している、といった意味で使われます。
分かりやすくいうなら、本気のオフロード向けである「クロスカントリー」をもっと多用途に拡大した「SUV」というジャンルがあって、それをさらに舗装路・街乗りに寄せたクルマが「クロスオーバーSUV」ということになります。
クロスオーバーという言葉が具体的にいつ頃から使われるようになったのかははっきり特定できません。
しかし、1994年にトヨタが発売した「RAV4」がコンパクトなボディにRV(SUV)の性能を詰め込んで大ヒットし、翌1995年にはホンダから「CR-V」が誕生。この時期に国内市場では「クロスオーバーSUV」というジャンルが確立したと考えていいでしょう。
そして1996年にデビューしたレクサス「LX」は、「ラグジュアリー・クロスオーバー」の略で、「クロスオーバー」という言葉を正式な車名に冠した最初の例だといわれています。
レクサスからは1998年に「RX(レイディアント・クロスオーバー)」、2002年に「GX(グランド・クロスオーバー)」、2014年に「NX(ニンブル・クロスオーバー)」、2018年に「UX(アーバン・クロスオーバー)」と続いて、レクサスブランドのSUVには「X(クロスオーバー)」が共通して入ることになります。
クロスオーバーSUVは、デイリーカーとして使い勝手がよく、レジャーシーンでもキャンプ場やちょっとした悪路にストレスなくアクセスできること、さらに視線が高いので小柄な女性でも取り回しやすいといった長所が多く、今や世界的に一番の売れ線ジャンルになってきました。
この背景には、自動車市場がグローバル化し、中東、アフリカ、アジア、南米といったいわゆる第三世界でも経済成長とともに自動車保有率が高まってきたことがあります。
未舗装路が多い地域でのデイリーカーとして、クロスオーバーSUVの需要が高まっているため、各メーカーで続々とこのジャンルに参入しているというわけです。
細谷俊彦さん、crossは交差するという語源(大辞林等)ですので、十字という意味もオンロードオフロードを跨いでして乗れるという意味も根本は同義です。