羊の皮を被った狼! M3エンジン搭載のナロー3シリーズとは

イタリアなどでは、税制上で有利なため2リッター化したエンジンを搭載したモデルはフェラーリにもあるが、実はレースシーンで大活躍したBMW「M3」にもあった。ただし、外観はノーマルの3シリーズという、本当の「羊の皮を被った」BMWを紹介しよう。

税制上、2リッター化したエンジンを搭載

 言わずと知れたBMW「M3」。初代モデルはE30型3シリーズをベースに、ブリスターフェンダーを装備し、「M1」にも搭載されていたM88型6気筒から2気筒を排除して作られた、2.3リッターS14型4気筒エンジンを載せた、レースへの参戦を目的としたモデルだった。

 のちにこのE30 M3には、DTM(ドイツ・ツーリングカー・選手権)のレギュレーション変更に合わせて、排気量を2.5リッターに拡大したエンジンを搭載した「スポーツエボリューション」というモデルも登場している。

 あくまでレースに参戦するためのモデルとして作られたこの初代M3、生産されたのは1985年から1990年と、すでに30年以上前のこととなるのだが、いまだにその人気は衰えない。

約350万円で落札された1998年式BMW「320is」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's
約350万円で落札された1998年式BMW「320is」(C)2020 Courtesy of RM Sotheby's

 ところが、である。そのころのイタリアとポルトガルでは、排気量が2リッターを超える車両には重税が課されるという政策が採られていた。かつて昭和の時代は日本でも、3ナンバー車は自動車税を一律に高い課税としていた時期があったが、つまりはそれと同じような施策だ。

 その施策のおかげというか、施策のせいで日本では、5ナンバー枠に収まる1700mmの車幅と、2リッター以下のエンジンという範囲のなかで、自動車メーカー各社は高性能さをアピールすべく、技術を競いあっていた。

 逆に、その枠を超える3ナンバー車は、富裕層向けのクルマとして作られていた、ということもいえる。

 それと同じことが、イタリアやポルトガルでもおこなわれていたのである。今回紹介するBMW「320is」というモデルも、そうした施策のひとつだ。

 このクルマはイタリアおよびポルトガルの重価税政策を避けるために作られたもの。ベースとなっているのは、2ドアボディのE30型3シリーズクーペなのだが、搭載されているエンジンは、M3に搭載されていたS14型をベースに、ショートストローク化によって排気量を2リッターに収めたものとなっている。

 具体的な数値でいうと、S14型のストロークが84mmだったのに対し、こちらは72.6mm。排気量は2302ccだったものが、1990ccとなっている。

 ただ、最高出力に関しては、オリジナルのS14型が日本仕様では195ps、触媒レスとしたヨーロッパ仕様では、のちに200ps/6750rpmだったのに対し、高圧縮比としたことやカムプロフィールの変更などによって、192ps/6900rpmを発生。排気量が小さいぶん、トルクは若干薄くなってはいるが、高回転まで回せることで、最大出力自体はわずかな違いとなっている。

 ミッションはM3の場合、後期モデルになるとZF社製のノーマルパターン5速MTが搭載されるようになったが、こちらはM3の初期と同じくゲトラグ製のレーシングパターン、左ハンドルの場合、手前下が1速となる5速MTのみを搭載している。

 ファイナルギアのギア比を、オリジナルのM3よりも低いものとしたことで、加速性能は遜色ないものとなっていた。

 しかし、見た目上では、2リッターバージョンのS14エンジンを搭載したモデルである、というアピール度は低い。この320isは、写真の2ドアボディ(AK95)のほか、4ドアボディ(AC95)も用意されていたが、2ドアの方に装備されていたエアロパーツはMテクニックによるもので、これはレギュラーモデルでもオプションとして装備が可能なものだ。デュアルテールのマフラーも、6気筒エンジンを搭載した325iスポーツと同じもの。

 4ドアボディにいたっては、エアロパーツも装備されていなかったため、唯一のアピールポイントは、トランクリッドに装備された「320is」のエンブレムのみとなっている。

 インテリアを見ても、違いはわずかなものとなっている。メーターは油圧計が装備されたM3と同じものだが、そこにMの文字はなく、指針も白色の通常のものだ。ステアリングはMテクニックのものだが、これも他モデルもオプション装備ができたため、見た目での判別は難しくなっている。

【画像】羊狼なBMW 320isの正体とは?(17枚)

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