300万円台から2000万円まで、シトロエン「ハイドロ」歴代モデルの価値を考察

マセラティ・エンジンを搭載した「SM」の落札価格は?

 1958年以降、シトロエンDS/IDには「デカポタブル(カブリオレ)」バージョンが追加。その大多数は、1919年に創業し、ドライエやドラージュ、タルボ・ラーゴなどフランスの名だたる高級車にボディを架装した名門カロジエ(コーチビルダー)「アンリ・シャプロン」に委ねられた。

●シトロエン「DS19M デカポタブル coachwork by アンリ・シャプロン」:1965年

1365台が生産されたなかでも、右ハンドル車は50台だけとされるシトロエン「DS19M デカポタブル coachwork by アンリ・シャプロン」(C)SILVERSTONE AUCTIONS
1365台が生産されたなかでも、右ハンドル車は50台だけとされるシトロエン「DS19M デカポタブル coachwork by アンリ・シャプロン」(C)SILVERSTONE AUCTIONS

 今回、シルバーストーン・オークションに出品されたDS19Mアンリ・シャプロン製デカポタブルは、特にレアな右ハンドル仕様であった。1365台が生産されたといわれているDSデカポタブルのなかでも、右ハンドル車は50台だけとされる。

 この時代のシトロエンDS/IDの場合、英国仕様の右ハンドル車は英国内で生産されていたのだが、パリ近郊のアンリ・シャプロン工房で製作されたボディ/インテリアをイギリスに送って完成車とする工程は、さすがに複雑かつ過大なコストを要したのか、英国スペックのデカポタブルは超レア車となってしまったようだ。

 2020年8月1日午後(現地時刻)におこなわれた競売では、9万−10万5000ポンド(邦貨換算約1230万円−1440万円)というエスティメートを遥かに飛び越えた、14万8500ポンド(邦貨換算約2060万円)に到達した。

 この落札価格は、近年高騰したDSデカポタブルのマーケット相場をほぼ踏襲したもので、相変わらずの人気モデルであることを裏づける結果となったといえるだろう。

●シトロエン「DS21デカポタブル coachwork by アンリ・シャプロン」:1970年

日本では「猫目」と呼ばれる4灯ヘッドライトを持つ後期型シトロエン「DS21デカポタブル coachwork by アンリ・シャプロン」(C)SILVERSTONE AUCTIONS
日本では「猫目」と呼ばれる4灯ヘッドライトを持つ後期型シトロエン「DS21デカポタブル coachwork by アンリ・シャプロン」(C)SILVERSTONE AUCTIONS

 今回の「The Silverstone Classic Live Online Auction 2020」では、シトロエンDSデカポタブルがもう1台出品された。日本では「猫目」と呼ばれる4灯ヘッドライト(内側2灯はステアリングの舵角に連動)を持つ後期型である。

 シルバーストーン・オークション社の設定したエスティメートは、9万−10万5000ポンド(邦貨換算約1230万円−1440万円)で、もう1台の1965年型と同じ。そして2020年7月31日の競売では、1965年型ほどではないものの同じく予想を上回る13万5000ポンド(邦貨換算約1870万円)で落札となった。

 1966年モデル以降のDSシリーズは、ハイドロニューマティックを作動させるためのオイルが、それまでの植物性LDSから鉱物性LHMに変更され、より信頼性が増すことから、高年式の車両を求めるファンは少なくない。

 ところがその一方で、日本のファンの間では「丸目」と呼ばれる、1967年モデル以前の2灯式ヘッドライトのクラシカルな味わいを愛するファンも多く、それが今回の落札価格の差となったようにも感じられる。

 いずれにしても、145万台以上が生産されたといわれるDS/ID全シリーズでも、デカポタブルは全時期/タイプを合わせても1365台のみ。今後もこのモデルの高価格は維持されるものと思われる。

 さらに「アンリ・シャプロン」のブランドで、さらに豪奢なデコレーションや独自のディテールを持つ2ドアモデル(クーペも含む)も時おりマーケットに出ることがあるのだが、こちらは日本円にして3000万円超えの落札価格になることが十分にあり得る。

●シトロエン「SM 2.7 V6」:1971年

マセラティ社から供給されたV型6気筒4カムシャフトのスーパーカー級エンジンを搭載したシトロエン「SM 2.7 V6」(C)SILVERSTONE AUCTIONS
マセラティ社から供給されたV型6気筒4カムシャフトのスーパーカー級エンジンを搭載したシトロエン「SM 2.7 V6」(C)SILVERSTONE AUCTIONS

 2020年、デビュー50周年を迎えるシトロエン「SM」は、ヨーロッパ大陸で急速に整備の進んでいた高速道路網に対応して、DSシリーズよりも速いGT的モデルが求められていたことから開発されたモデルである。

 パワーユニットは、当時シトロエン傘下にあった伊・マセラティ社から供給される、V型6気筒4カムシャフトのスーパーカー級エンジンがセレクトされている。

 1975年をもって生産を終えるまでにラインオフした台数は1万2920台と、この種の高級グラントゥーリズモとしてはまあまあの量産モデル。そのため希少価値こそ望めないものの、その成り立ちや独特の耽美的スタイルに熱烈な支持を示すファンは少なくない。

 現在の国際マーケットにおける流通量も比較的多いのだが、現状で「For Sale」となっているSMを見ると、安価なものでは200−300万円で入手可能な一方で、高いものとなると1000万円を軽く超える個体もチラホラ散見できる。

 つまり、コンディションや来歴によって、価格のブレが激しいモデルとみて間違いあるまい。

 今回の出品車両には1万8000−2万2000ポンド(邦貨換算約246万円−約301万円)というエスティメートが設定されていたが、これがどうやら相当に控えめな数字だったようで、実際の競売では3万3188ポンド(邦貨換算約460万円)まで上昇・落札となった。

【画像】シトロエンのハイドロだけが持つ独自の世界とは(36枚)

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