いまの2倍以上は走る!? トヨタが研究開発する「全固体電池」はEVの救世主になるのか
研究が進められる全固体電池、実用化なるか?
時計の針を少し戻すと、いまから10年ほど前、日産「リーフ」や三菱「i-MiEV」が登場した2010年頃に、全固体電池の基礎研究に注目が集まり、筆者(桃田健史)も参加した自動車関連の学会や各種カンファレンスで研究成果が紹介される機会が増えました。
当時、中国では中国全土25都市で公共交通機関や物流向けにEV普及策があるなど、世界各地でEV普及が一気に伸びそうな雰囲気でした。
そのため、自動車メーカーや電池メーカーは、大学など研究機関でおこなわれていた全固体電池研究に対する支援にも積極的でした。
ところが、その後に中国のEV施策の中止や、東日本大震災の影響、さらに自動車メーカーが想定したほどEVの需要が高まらなかったことなどから、既存のリチウムイオン電池の量産効果が業界の当初予測ほどに達しませんでした。
その影響が全固体電池の研究開発にも及びました。大学やメーカーの基礎研究としては着実に継続されたものの、量産化に向けた具体的な動きがスローダウンした印象があります。
そうした状況に変化が見えたのは、2010年代の半ば過ぎだと思います。
その頃、ドイツのフォルクスワーゲングループが中期経営計画で大胆なEVシフトを表明し、その流れにダイムラーやBMW、さらには部品大手のボッシュやコンチネンタルなども同調する動きが出始めました。
背景には、中国政府が進める新エネルギー車政策や、欧州共同体(EU)の実務機関である欧州委員会(EC)による環境規制の影響などがあります。
各種の規制強化によって、EVの需要が高まれば、高性能な駆動用電池が必要になるため、全固体電池の早期量産化に向けた動きに弾みがついた印象があります。
そうしたなか、自動車メーカーとして全固体電池の実用化を公言しているのがトヨタです。
ただし、トヨタは現在(2020年8月時点)でEV量産化について、日本では超小型車などを除いて明言していません。中国市場向けの量産車「C-HR EV」とレクサス「UX300e」は、あくまでも中国の新エネルギー車向けの、地域限定の対策として見切っています。
トヨタ全体としての技術的な将来ビジョンでは、EVは比較的短距離な移動で使うシティコミューターに焦点を当て、長距離移動の次世代車は燃料電池車を開発の中核に置いています。
そのうえで、トヨタとしては電池の基礎技術から量産技術まで、大学や電池メーカーと連携しながら、社内での電池開発の柱として全固体電池を位置付けています。
当初、東京オリンピック・パラリンピックで全固体電池を活用したクルマのお披露目を計画していたといわれているトヨタ。近いうちに、何らかの発表があるのかもしれません。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
記事タイトルの漢字が間違ってますよ。
「全個体」ではなく「全固体」です。
このたびはご指摘をいただき、誠にありがとうございます。
修正いたしました。