「アルヴェル」の明暗を分ける!? トヨタ内で人気車・不人気車の格差が生じたワケ
人気車と不人気車の格差が顕著に!?
トヨタが小型/普通車を堅調に売るために大切な役割を果たしたのが、トヨタ店/トヨペット店/トヨタカローラ店/ネッツトヨタ店という販売系列です。
以前は系列ごとに専売車種も用意され、トヨタ店のクラウン、トヨペット店のハリアー、トヨタカローラ店のカローラ、ネッツトヨタ店の「ヤリス(旧ヴィッツ)」などは、ほかの販売系列では扱いませんでした。
例えばトヨペット店は、ハリアーをとくに大切に売りました。近所にトヨペット店のないユーザーは、ハリアーを遠方まで買いに出かけることもありました。そのためにハリアーは高価格車なのに堅調に売れて、販売会社の売り上げを維持する上でも大切な存在だったのです。
ところが2020年5月になると、先行して実施していた東京地区に続いて、ほかの地域もトヨタの全店が全車を売る体制に変更されています。
東京地区以外はトヨタ店やトヨペット店といった4系列は基本的に残っていますが、全店が全車を扱うと、系列の意味は実質的に薄れます。
そして全店が全車を扱えば、トヨタ店やトヨペット店でヤリスを、あるいはトヨタカローラ店やネッツトヨタ店でハリアーを買えますから、人気車は売れ行きをさらに伸ばします。
逆に不人気車は販売力を奪われて売れ行きが下がり、トヨタ車同士の人気と不人気が一層明確になります。
この状況について、トヨペット店では次のようにいいます。
「いまは『アルファード』やハリアーをほかの系列でも買えるので、以前専売だったトヨペット店としては、正直愉快ではありません。しかしウチとしても、ヤリスやカローラを新たに販売できるので、それはお互いさまでしょう。
注意したいのは、アルファードやハリアーの売り上げを保つことです。この2車種が減って、低価格のヤリスやカローラが増えると、販売台数は増加したのに収益が下がることも起こり得るからです」
人気車が伸びて不人気車が下がる販売格差は、すでに生じています。
例えば「アルファード&ヴェルファイア」は、現行型が発売されたときまでは、ヴェルファイアの販売が好調でした。
それが2017年のマイナーチェンジでフロントマスクの形状を変えると、販売順位が逆転してアルファードが優勢になりました。
この販売格差は、全店が全車を売るようになるとエスカレートして、2020年6月にはアルファードとヴェルファイアでは6倍の差が生じています。
以上のようにトヨタが小型/普通車販売で最強になった背景には、優れた商品力や、ホンダや日産の2倍以上に達する販売店舗数に加えて、他メーカーの小型/普通車が弱体化したこともありました。
それなのにいまになってトヨタも全店で全車併売に踏み切り、他メーカーのような販売格差も生じ始めています。
今後は、アルファード/ヴェルファイアやノア/ヴォクシー/エスクァイアなどの姉妹車は統合が進むでしょう。発売から13年以上を経過した「プレミオ/アリオン」なども整理される可能性が高いです。
そうなるとトヨタの販売総数が減ることも考えられます。合理化は大切ですが、ヴェルファイアやエスクァイアが廃止されると、寂しい思いをするユーザーもいるでしょう。
今後は車種を廃止しながら、ユーザーの満足感をいかに高く保つかが重要です。サブスクリプション(定額制でクルマを使えるサービス)もその一環ですが、さらに新しいアイデアの採用も待たれます。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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