マセラティ「MC12」のベースは、「エンツォ フェラーリ」だった!【エンツォ物語:03】

日本人デザイナーによる唯一のフェラーリのスペチアーレ「エンツォ フェラーリ」。この伝説的なフェラーリスペチアーレにまつわるストーリーを3回に分けてお届けしよう。最終回となる第3回は、エンツォから派生して誕生したクルマたちの物語だ。

かつてのライバルから「エンツォ」の派生モデルが誕生した!

 2002年のパリ・サロンでオフィシャルデビューを飾った「エンツォ フェラーリ」は、「F50」、あるいは「F40」といったプレミアム・フェラーリの前作と同様に、世界の熱狂的なフェラリスタから高い支持を得ることとなった。

 限定生産のカスタマーリストは一瞬でそれが埋め尽くされ、転売は認めないという条件で、そのカスタマーを厳選したフェラーリの意思にもかかわらず、市場では高価なプレミアムを投じてでも、エンツォを手に入れようというカスタマーも多かった。それはフェラーリのプレミアムモデルが、いかに魅力的な商品であるのかを証明する、他社では考えられない事情だった。

「エンツォ フェラーリ」があくまでもロード仕様を前提としていたこととは対照的に、マセラティ「MC12」の場合はレース仕様があくまでもその主流である
「エンツォ フェラーリ」があくまでもロード仕様を前提としていたこととは対照的に、マセラティ「MC12」の場合はレース仕様があくまでもその主流である

 だがエンツォを生み出したフェラーリの戦略というものは、これでは終わらなかった。エンツォが発表されて以降、ファンの間ではフェラーリがそれをモータースポーツの世界に投じる計画が存在するのかどうかが常に話題となっていた。

 当初はその計画こそなかったものの、プライベーターからの要求によって、複数のコンペティション仕様を生み出し、それがサーキットに投じられるに至ったF40。そして試作車としてGT仕様を製作するも、結局それが実戦投入されることはなかったF50、といった前例を考えれば、このような議論が巻き起こるのはきわめて自然な成り行きである。

 だが結論のみを簡潔に報告するのならば、フェラーリは、エンツォをベースにコンペティション仕様を製作するという結論を望まなかったのだが、一方水面下では驚きのプランが着々と進行していた。当時フェラーリと共存共栄の道を歩んでいたマセラティから、エンツォの姉妹車ともいえるモデルを発表し、それをモータースポーツの世界に投じようというのである。

 当初「MCC=マセラティ・コルセ・コンペティツィオーネ」のネーミングとともに、FIA‐GT選手権への参戦計画を明らかにした新作は、マセラティ社の創業90周年にあたる2004年のジュネーブ・ショーで正式発表された時点で、新たに「MC12」へと車名を改め、その全貌が明らかになった。

 同時にレース仕様となるコンペティツィオーネのほかに、ロード仕様のストラダーレ(こちらはシンプルにMC12と呼ばれる)が生産されることがアナウンスされ、エンジニアリング面でのベースとなったエンツォが発表された時と同様の、いや計画された生産台数を考えれば、それ以上ともいえるインパクトを、市場に与えてくれた。

 エンツォがあくまでもロード仕様を前提としていたこととは対照的に、MC12の場合はレース仕様があくまでもその主流といえる。したがってエンツォでは、カスタマーの希望どおりにボディカラーなどを選択することができたが、MC12の場合は、ビアンコ・フジと呼ばれるホワイトと、いわゆるマセラティ・ブルーの2トーンによるボディカラーが唯一設定されていたのみであった。

 可変ウイングの類は一切採用されておらず、リヤウイングの角度調整も不可能。ここにエンツォとMC12との間にある、大きなキャラクターの違いが表現されているのである。

 当時フェラーリのチーフスタイリストであった、フランク・ステファンソンの手によって描き出されたMC12のスタイリングは、全長で5143mm、全幅で2096mmという堂々たるボディサイズもあってか、かつて全盛を極めたグループCカーのそれにも似た、実に流麗なものに仕上がっていた。

 基本構造体はノーメックスハニカムを採用したカーボンモノコックで、これもまたMC12に独自のもの。リアミッドに搭載されたエンジンは、632psの最高出力となる6リッター仕様のV型12気筒DOHCで、これはエンツォ用ユニットがベースとなっている。

 ミッションはエンツォと同様に2ペダルのシングルクラッチ型ロボタイズド6速MTだが、それまでのマセラティ車の例に倣って、MC12の場合にはカンビオコルサの名が与えられた。

 MC12の内装は、意外にも豪華なフィニッシュだ。ボディカラーとコーディネイトされたブルーレザーを積極的に採用するほか、現代のロードモデルには必要不可欠なエアコンも標準装備。シートはスパルコ製のバケットタイプで、シリアルプレートにはカスタマーの名前までもが刻印されるなど、その趣味性は高かった。

 ロード仕様のMC12は、2004年に25台、そして翌2005年にも25台がカスタマーのもとへとデリバリーされているが、それを手中に収めることができた幸運なカスタマーは、同時にモータースポーツの世界において活躍するMC12の姿を、さらに誇らしく感じただろう。

 レース仕様のMC12である「MC12コンペティツィオーネ」は、当然のことながらさらにスパルタンなフィニッシュを見せる。マセラティからリース供給されるエンジンは、吸気制限によって約600psにまで出力が抑えられたものの、その戦闘力はやはりFIA‐GT選手権においては圧倒的だった。

 そしてマセラティが、このサーキットアクティビティから新たにMC12のラインナップに派生させたのが、12台の限定車として発表した「ベルジオーネ・コルセ」である。それはまさに、その前年にフェラーリから発表されたエンツォの派生形、「FXX」のマセラティ版ともいえるサーキット走行専用車である。

 レースへの参加も一般道での走行も不可能である代償として、このベルジオーネ・コルセには755psというマセラティ史上最強の6リッター版V型12気筒エンジンの搭載が実現した。ミッションはコンペティツィオーネの3ペダルシーケンシャルではなく、ロード仕様と同様のカンビオコルサとされた。

【画像】エンツォ フェラーリから派生したスペシャルなクルマとは?(41枚)

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