ブガッティ「ヴェイロン」は、東京−名古屋間の新幹線車内で生まれた!
ハイパーカーの先駆けとして時代を切り拓いたブガッティ「ヴェイロン」。このヴェイロンのコンセプトは移動中の新幹線内で生まれ、そしてコンセプトカーのワールドプレミアは東京モーターショーであった。まだ、日本も元気だった頃のヴェイロン誕生物語をお届けする。
新幹線内で生まれたヴェイロンのコンセプトは、18気筒だった!
1997年のある日、東京−名古屋間を走る新幹線の車中にて、のちに自動車界を大きく変えることになる壮大なコンセプトが着想された。
フォルクスワーゲン・グループにて、パワートレイン開発部門トップを長らく務めたカール・ハインツ・ノイマン氏が、その時のことを述懐する。「彼は、長い間アイデアを温めていました。18本のシリンダーを内包したエンジン。これまでの常識を覆すほどに強力で、しかもスムーズなものです。そして、彼の発案したエンジンを搭載する、規格外の市販車を創ろうと思いついたのです」
ここでの「彼」とは、フェルディナント・カール・ピエヒ博士のこと。天賦の才を持つエンジニア、および長きにわたってフォルクスワーゲン・グループの会長の地位にあった人物である。
そして、ピエヒ博士の強力なバックアップのもとに開発がはじめられ、2005年の東京モーターショーにてワールドプレミアされたブガッティ「ヴェイロン16.4」は、現在隆盛を極めている「ハイパースポーツカー」というジャンルを開拓した最初の一台にして、自動車の歴史を書き換えるモデルでもあった。
●アイデア:常識を超えたエンジン
フェルディナント・ピエヒ博士には、新幹線車中で発案した当初から明快なビジョンがあった。それは、強力無比なエンジンが必要不可欠であること。彼が着想した超弩級スーパーカーの成否のカギを握るのはエンジンであり、それはほかの何よりも優先すべき事項だった。
そこで、彼とその部下たちが開発したのは、まさしくエンジニアリングの革命ともいうべき18気筒のエンジンだった。フォルクスワーゲンの挟角V6「VR6」シリンダーを60度ずつ、3方に組み合わせたW型18気筒ユニットを設計したのだ。
このエンジンは自然吸気で、6.25リッターのキャパシティから555psを出すとともに、例外的にスムーズなドライバビリティも提供。より優れたハイパースポーツカー、あるいは超高級サルーンにも転用可能な理想的なエンジンになると思われていた。
現在、ブガッティでCEOの地位にあるシュテファン・ヴィンケルマン氏は、このコンセプトについて、以下のように語っている。
「エンジニアとしても際立つ存在であったフェルディナント・ピエヒ博士が1997年に着想したアイデアは、実に素晴らしいものでした。私は、その時に彼とスタッフたちがおこなった仕事に最大限の賛辞を贈りたいと思います。
この偉大なブランドを復活させるために、ピエヒ博士やスタッフたちが湧き起こした勇気やエネルギー、情熱は、穏やかながら真摯に伝わってきます。私たちは、この時の彼らの熱意に、常に忠実でありたいと思っているのです」
こうして、自ら発案したプロジェクトに向けて邁進することになったピエヒ博士だが、この時の彼にはひとつだけ無いものがあった。それは、彼のエンジンに相応しいブランド。彼は手持ちのもの以上に豊かなキャリアを持つ、エクスクルーシヴなブランドを求めていた。
そこで、個人的にもブガッティのクラシックカーをコレクションしていた博士は、イタリアの実業家ロマーノ・アルティオーリ氏が所有していた「ブガッティ」の商標権を獲得することを決意した。
1980年代からブガッティの復興を夢見ていたアルティオーリ氏は、イタリア・モデナ近郊カンポ・ガリアーノに画期的な大型工場を建設。ブガッティの開祖、エットレ・ブガッティの生誕110周年である1991年9月15日に「EB 110」を初公開した。
ところが、この直後にスーパースポーツカーの市場が大幅に冷え込んだことから、アルティオーリ氏の夢のファクトリーは1995年に閉鎖を余儀なくされてしまう。
しかしブガッティの伝説が、再び長い休眠期間を迎えることはなかった。1998年にVWグループがブランドを正式獲得した直後から、ピエヒ博士は迅速な行動に出るのだ。
博士のプランは、1920年代から1930年代の最盛期に、エットレ・ブガッティが実現した世界観を復活させること。自らのエンジンのアイデアから発展し、ビスポークないしは少量製作の超弩級スーパースポーツを製作すると決意した。
そして、この目的と構想を具現化することのできる唯一の人物、博士の友人にして伝説上の自動車デザイナーである、ジョルジェット・ジウジアーロ氏にコンタクトをとることにしたのである。
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