ベントレーボーイズは現代版セレブなアイドル!? 復刻される戦前の「ブロワー」とは?

いまでいうアイドル、ベントレーボーイズの発案で「ブロワー」は誕生した

 現在では「ヴィンテージ期(1919年から1930年)の英国車を代表する歴史的傑作」と称されるブロワーベントレーだが、このクルマのプロジェクトについて、開祖W.O.ベントレーは乗り気でなかったという。

 1920年代も終盤にさしかかると、いかに大排気量&大パワーを誇ったベントレーとて、超高速ストレートを持つル・マンにおいては若干のパワー不足が感じられるようになっていた。そこで「スーパーチャージャーを装着しよう」と思い立ったのが、ベントレーボーイズの主要メンバーで、1929年のル・マンでは総合優勝クルーの一人だった「ティム」ことサー・ヘンリー・バーキンである。

ベントレー「コンチネンタルGT No 9 エディション」(左)と「ブロワーNo.9」
ベントレー「コンチネンタルGT No 9 エディション」(左)と「ブロワーNo.9」

 彼はW.O.にスーパーチャージャーを装着した4 1/2Litreの開発を依頼するが、パワーを得るには排気量の拡大こそ正道と確信していたW.O.は、バーキン卿の申し出を却下してしまう。

 そこで、ベントレーボーイズきっての美男子としてアイドル的な人気を集めていたバーキン卿は、当時の英国で最も裕福な若者の一人といわれていた女性貴族、ミス・ドロシー・パジェットの資金援助を得て、自ら開発に踏み切る。

 さらに車両製作はクリクルウッドの本社工房にておこなわれたものの、この時期になるとベントレー社の財政もかなり逼迫していたので、ワークス体制での参戦についてはW.O.から断られてしまう。

 そこでバーキンはミス・パジェットに再度の説得をおこない、彼女の名義でプライベートチームを結成。バーキン/シャサーヌ組とベンジャーフィールド博士/ジュリオ・ランポーニ組の「ブロワー」2台体制で、なんとか1930年のル・マン、サルト・サーキットのグリッドに並んだのだ。

 こうして宿願を叶えたかに見えたバーキンだが、残念なことに彼の野望は脆くも崩れることになった。バーキンのブロワーは6分48秒という、この年のル・マン最速ラップタイムをマークする健闘を見せたものの、2台のブロワーのエンジンはともに重大なトラブルを発生。日曜の午後に、相次いでリタイアを喫してしまったのだ。

 ただしベントレー社にとって幸いだったのは、同じベントレーボーイズの仲間として1929年のル・マン総合優勝を分かち合い、当時はベントレー社の会長でもあったウォルフ・バーナート大尉が、前年と同じくベントレー6 1/2Litre「スピードシックス」に乗って、自身にとっては3年連続となる優勝を果たしたことだろう。

 一方ル・マンでは敗退したベントレー・ブロワーも、それ以外のイベント、例えば英国ブルックランズのハイスピードレースなどでは連戦連勝の目覚しい成果を挙げたことによって、ベントレーとベントレーボーイズの威信は保たれることになった。

 ところが、当時のレギュレーションが要求する50台(+バーキン・カーと呼ばれる5台のレーシングバージョン)の「ブロワー」を特別に少量生産するコストが意外なほどにかさんだことは、ベントレー社の屋台骨まで蝕む結果となってしまう。

 この結果、もとより慢性的な経営不振状態にあったベントレー社の経営状況はさらに悪化。1930年末にはロールス・ロイス社の傘下に収まるとともに、ベントレーボーイズも事実上の解散となった。

 しかし、ベントレーボーイズと彼らの愛車たちが遺した軌跡は、いまなおベントレー愛好家を魅了してやまない。

 そして、われわれ日本人の「判官びいき」のごとく、敗れてもなおヒロイックな存在を何よりも愛するイギリスのエンスージアストにとって、強くて雄々しいベントレー・ブロワーは特別な存在。ティム・バーキンという英雄とともに、永遠の憧れであり続けている。

 たとえ、誕生から90年を経た真正のヴィンテージカーであっても、ベントレーが21世紀に復活させるクルマとしてまず選ばれるべきは、ブロワーをおいてほかにはあり得なかったのであろう。

●最も偉大なブロワーを完全分解

 ベントレーとマリナーが復刻生産する「ブロワー・コンティニュエーションシリーズ」の開発・製作にあたって、そのひな型となったのは、ティム・バーキン卿がル・マン24時間レースで走らせた個体そのもの。

 2019年3月のジュネーヴ・ショーにおいて正式発表された、ベントレー100周年記念限定車「コンチネンタルGTナンバー9エディション」のモチーフにも選ばれた「ブロワーNo.9(シャシーナンバーHB3403/登録ナンバーUU5872)」である。

 ベントレーとマリナーのプロジェクトチームは、これまで世界中のイベントに駆り出されていたブロワーNo.9を、フルレストアにあたって完全に分解。各パーツを一覧にまとめて3Dスキャナーで測定し、デジタルモデル作成を目指した。

 そして、2名の専任CADエンジニアが合計1200時間を要して、3Dスキャンしたデータと測定値から精巧なデジタルモデル作成に入ったのだが、COVID-19ウイルス感染の危機に備える必要もあったエンジニアたちは、これらのデータを自宅に持ち帰り、テレワーク作業によってデジタルモデルを完成させたという。

 今後は、かつてオリジナルの41/2Litreブロワーを製作する際にも使用された1920年代の金型と治具、伝統的なツールに加え、最新の製造技術を使用して12台分のパーツを製作。そして、それらパーツをベントレー・マリナー部門の熟練工らが組み立てることによって、実に90年の時を経て新車の「ブロワー」が誕生する予定となっているのだ。

 12台のブロワー・コンティニュエーションシリーズは「メカニズムやルックスはもちろん、ベントレーボーイズのスピリットについても、可能な限り当時のままを引き継ぐ」と謳われている。

 ただし安全性に関してのみは、目立たない部分でわずかに現代のシーンに合わせたアップデートが加えられるという。

 ベントレー・マリナー部門のアルチザンたちの力で、12台のコンティニュエーションシリーズが完成するのは、来たる2021年になるとのことである。

【画像】ベントレーボーイズと「ブロワーNo.9」とは?(15枚)

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