公道で出会えたら奇跡! レーシングカーをロードカーに仕立てたジャガー「XJR-15」

いうなれば公道走行可能なレーシングカー「XJR-15」とは?

 当時のジャガーといえば、XJRシリーズでプロトタイプレーシングカー界を席巻していた。なかでも1988年の「XJR-9」の大成功が、このXJR-15誕生への布石となったのである。

古き良きスポーツカーを彷彿させる低く流麗なプロポーション
古き良きスポーツカーを彷彿させる低く流麗なプロポーション

 それは、XJR-9ベースのロードカーを造る、という途方もない企画。けれども、アノ時代、モータースポーツ界にて暗躍するビッグネームたちの脳ミソに、不可能の三文字を見つけることの方が、不可能に近かった。

 加えて、その企画がXJ220とほぼ同時進行していたことを思い出して欲しい。ジャガーとジャガースポーツ、そしてレース界の錬金術士TWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)という三つ巴の構造が、「日本がアメリカすべてを買うかも」という驚天動地の時代にあって、激しく脈動した。

 事実上、カーボンコンポジット製のロードカーとしては世界初ということになる。そりゃそうだろう。ベースは何と言ってもル・マンウィナーのXJR-9である。

 床下は完全にフラット。背後にはジャガー製6リッターV12が積まれていた。車両重量は、XJR-9に加えること、およそ150kgの1050kgというから、いかにこのクルマが「最小限」のロードカー化ですませていたかが伺える。

 生産台数、わずかに50台。実際に走る姿を見ることはもちろん、座るチャンスなどめったにないと思うが、もしこのクルマに運良く遭遇するなんてことがあったとしたら、是非、オーナーに、土下座して頼んででも、乗り込んでみて欲しい。レーシングカーがベースになっていることを、即座に、身体で感じることができるはずだ。

 まず、カウンタックなど比じゃないサイドシルに戸惑うだろう。ちょっとしたベンチのようである。

 なんとか身体を折り曲げて乗り込んではみたものの、アシを伸ばして一息つく、というわけにはいかない。身体の向きだって、なんだか妙だ。脚は完全に車体の中央線を目指している。足下はタイトこの上なく、隣の小さなシートに人が乗ろうものなら、互いの脚が絡まってしまうんじゃないか? と思ってしまうほど。

 これでもXJR-9より7.5cm室内はワイドだという。レーシングカーよりルーフを4cm高めたため、頭上はそれなりに広いが、完全なるキャノピースタイルで、左右の幅は上にいくに従ってすぼめられている。乗ってしまえば大いにリラックスできたXJ220とは、大違いだ。

 右に座って、右のシフトを動かす。これもまたレーシングカーの流儀。

 以前、TWR製6速ノンシンクロミッションとカーボントリプルクラッチのコンペティションモデルに試乗したことがあった。あいにくの雨の中、精神的にも、そして肉体的にも、これほど乗りづらいスーパーカーはほかにない、と思ったものだ。

 けれども、ひとたびアクセルを踏み込んでゆけば、ウルトラシルキーなジャガー製V12が徐々に唸りをあげて、乗り手の背骨を刺激する。それは、まさに痺れるような快感だった。

 あくまでもドライバーの意志に忠実な前脚の動きと、車両バランスの良さは、やはりロードカーのものじゃない。速く走るためだけに造られた、レーシングカーそのものの動きである。

 これが、ただの高速道路ではなく、現金1億円をかけて戦った、XJR-15によるワンメイクレースのサーキットであったなら……。そのまま加速を続けていくうちに、意識がすーっと薄れだし、みるみる悪くなる視界の向こうに、モナコやシルバーストーン、そしてスパフランコルシャンが見えた気がした。

 走りのレベルはロードカーのそれではなく、古き良きレーシングカーそのもの。何しろ、XJRといえば、当時の純スポーツプロトタイプのための呼称であり、事実、XJR-15の前後、14と16は紛れもなくCカーであった。

 12気筒エンジンを積む、ミドシップのレーシングカーを公道で楽しむ。しかもマニュアルミッションで。この時代、もはや二度と実現しない企画であることは明らかであろう。

 一度は、試しておきたい。

* * *

●JAGUAR XJR-150
ジャガーXJR-15
・全長×全幅×全高:4800×1900×1100mm
・ホイールベース:2780mm
・エンジン:V型12気筒SOHC
・総排気量:5993cc
・最高出力:450ps/6250rpm
・最大トルク:569Nm/4500rpm
・トランスミッション:6速MT

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