なぜ最近のSUVは2WDが主流? 悪路も走れる4WDと二極化が進む訳
コンパクトSUVは2WDがメインになる訳とは?
今日のSUVの売れ方が以前と異なるのは、4WDの販売比率が下がったことです。例えばコンパクトSUVのトヨタ「ライズ」は、外観がオフロードSUV風でワイルドな印象を受けますが、駆動方式の販売比率は前輪駆動の2WDが70%以上です。
ホンダ「ヴェゼル」やトヨタ「C-HR」も同様に、70%から80%が2WDで、4WDは少数派です。
先ごろ生産を終えた日産「ジューク」は、売れ筋の1.5リッターエンジン車は2WDのみで、4WDは1.6リッターターボ車にだけ設定されていました。
レクサス「UX」はハイブリッド車に4WDを用意しますが、ガソリン車は2WDのみです。
C-HRは逆にハイブリッド車は2WDで、1.2リッターターボ車に4WDを設定しています。ヴェゼルは大半のグレードで2WDと4WDを選べますが、スポーティな「RS」と1.5リッターターボの「ツーリング」は2WDのみです。
4WDがこのように限定されると、2WDが売れ筋になるのも当然でしょう。
また立体駐車場の利用性を考えて全高を1550mm以下に抑えたSUVのなかには、最低地上高が160mmを下まわる車種もあります。
これでは悪路のデコボコを乗り越えにくいですが、開発者は「悪路の走破力はあまり重視していない」といいます。
このような傾向がハッキリしたのは、2009年に発売された日産「スカイラインクロスオーバー」でした。
最低地上高がほかのSUVに比べると低く設定されており、開発者に悪路走破力について尋ねると「悪路? まったく考えていません」とコメントされました。
その代わりスカイラインクロスオーバーは、スカイラインのセダンに比べると天井が高く、後席の居住性はセダン以上に快適でした。荷室は格段に使いやすいです。
スカイラインに含めるか否かは賛否両論でしたが、運転感覚は楽しく「最も実用的なスカイライン」だといえます。
そしてスカイラインクロスオーバーは、昨今のSUVの本質を突いたクルマでもありました。
もはやかつてのオフロード4WDとは完全に決別して、むしろステーションワゴンや5ドアハッチバックをベースに、外観をアクティブな雰囲気に変更したモデルといえるでしょう。そうなると4WDの設定は、必須条件ではありません。
その一方でRAV4は、コンパクトなシティ派SUVとして誕生しながら、現行型はSUVの原点回帰を思わせるオフロード4WD風に発展しました。
前輪駆動の2WDを選べるのはベーシックな「X」のみで、4WD比率が圧倒的に高いです。日産「エクストレイル」も、水洗いの可能な荷室などアウトドアでの使い勝手を向上させ、4WD比率が高いです。
売れ筋が2WDか、4WDかは、車両の考え方、デザイン、訴求方法で変わります。さらにいえば、スバル「インプレッサ」はSUVではありませんが、4WD比率が半分以上です。これは、スバルが四駆に強いというイメージが定着しているからでしょう。
実際、スバル車のラインナップで2WDを設定しているのは、インプレッサと「BRZ」、ダイハツがOEM供給する軽自動車・普通車のみで、そのほかの車種はすべてAWD(4WD)となっています。
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同じモデルでも、4WDの価格は2WDに比べて高くなります。価格差が20万円前後となることから、価格の安さが求められるコンパクトな車種では割安な2WDが主流になります。
また、前輪駆動ベースの4WDには、駆動力を後輪に伝えるプロペラシャフトとリアの駆動システムが加わりますから、車両重量が60kg前後は増え、走行抵抗を含めて、燃費は7%前後悪化します。
コンパクトSUVにとっては低燃費であることも重要で、価格や燃費性能といった経済性は、売れ行きに大きく影響します。
ジュークの後継となる「キックス」も電動パワートレインのe-POWERを搭載した2WD専用車として登場します。
その一方でミドルサイズ以上のSUVでは、安全性を高める走行安定性が大切な付加価値になるため、4WDに一層力を入れます。
具体的には横滑り防止装置や衝突被害軽減ブレーキなどの各種センサーから得られた豊富な情報を積極活用して、4WDシステムの多板クラッチやブレーキを統合制御します。
4WDを構成する主なメカニズムは従来と同じでも、安全装備や運転支援機能の向上でソフトウェアが進化を遂げ、4輪駆動のメリットをさらに拡大するわけです。
4WDの統合制御は、駆動力を綿密にコントロールできるモーターとの親和性も高いので、将来的に有望な走りのコア技術になるでしょう。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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