アウディ「クワトロ」が40周年! 記念すべき初代クワトロはどんなクルマ?

最初のアウディ「クワトロ」が世に登場して、40年を迎えた。いまでこそアウディといえば、四輪駆動=「クワトロ」というイメージが強いが、クワトロはどのようにして開発され、この世に生まれたのだろうか。

故フェルディナント・ピエヒ博士、入魂の一台

 新型コロナ感染症による世界的な惨禍の影響を受けて、少なくとも現状では記念イベントの類は予定されていないものの、2020年はアウディの象徴ともいうべき「クワトロ」の40周年であった。

 長らくオフロードカーの専売特許であったはずの全輪駆動を、オンロード用のハイパフォーマンスカーに採用。ハイパワー化には必須条件であるトラクションの向上を支えるという、現在では古今東西の自動車メーカーで常道となったテクノロジーを、初めて具現化・実用化したのがアウディだった。

 今回は、テクノロジーコンシャスなメーカーの最右翼、アウディにおける「クワトロ」という概念を初めて世に問うた、偉大なるパイオニア。その名もアウディ「クワトロ」について、お話しさせていただくことにしよう。

アウディ・スポーツクワトロ
アウディ・スポーツクワトロ

 アウディ・クワトロは、1980年パリ・サロンにおける正式デビューから遡ること1、2年前の1978年ごろから、早くもヨーロッパの自動車メディアの新車スクープコーナーなどを賑わしていた。

 わが国においても、故ポール・フレール氏が「カーグラフィック」誌にプロトタイプの試乗記を寄稿し、絶賛とともに紹介したこともある。

 にも関わらず、筆者を含む当時の自動車ファンは「4WDのオンロード向け高性能スポーツカー」という可能性など、まるで考えられなかった。

 1966年の英国にて、ファーガソン社製フルタイム4輪駆動システムとともに登場した超高級スポーツクーペ「ジェンセンFF」という先達があるものの、全輪駆動はあくまでオフロード向け、クロスカントリー車向けテクノロジーというのが当時の常識だったのだ。

 しかし、かのフェルディナント・ポルシェ博士の孫で、自身もポルシェで初代「911」や、レーシングプロトタイプ「917」などの傑作を手掛けた天才的エンジニアであり、のちにフォルクスワーゲン・グループ全体を率いる経営者としても剛腕を奮うことになる故フェルディナント・ピエヒ博士は、世間並みのエンジニアとは一線を画した、独創的な見解を持っていたようだ。

 1972年、同族経営のポルシェを辞してフォルクスワーゲン傘下のアウディに移籍したピエヒ博士は、30歳代半ばの若さで技術担当役員に就任。

 1976年に登場した2代目「100」にて、いまなおアウディ・テクノロジーにおけるアイデンティティとなっている直列5気筒ガソリンエンジンを初めて採用した。

 そしてこのエンジンに、一基のターボを組み合わせてアウディ・クワトロにも搭載。当時の技術レベルからすれば、充分ハイパワーと称された200ps(本国仕様)をマークすることになった。

 一方、モノコックは2代目アウディ「80」のクーペ版であるアウディ「クーペ」と共用するものの、前輪のストラット式サスペンションは同じアウディでも上級車にあたる「200」から流用。

 リアサスペンションもアウディ200の前輪用を前後反転して使用している。またブレーキも「クーペ」の前ディスク/後ドラムに対して、前ベンチレーテッドディスク/後ディスクにグレードアップされた。

 エクステリアについても、拡大されたトレッドとワイドなホイール/タイヤに対応すべく前後のフェンダーをブリスター形状とし、エアダム一体型バンパーとサイドスカートを装備。

 アウディ・クーペでは後期バージョンまで標準設定のなかった、ウレタン樹脂製の大型リアスポイラーも装着された。

 しかしこのクルマでもっとも注目すべきポイントは、やはりドライブトレインだろう。とくに前後のディファレンシャルとは別に、空転時にはマニュアル操作でロックも可能な、ベベルギヤ式メカニカルセンターデフを設けるフルタイム4WDシステムは、悪路での走行を想定した従来のクロスカントリー4駆たちとは一線を画していたのだ。

 そして、この新機軸によって獲得した強大なトラクション性能は圧倒的なもので、ドライな路面でもハンドリングが格段に向上したのはもちろん、雨や雪などの悪条件下にあっても、ハイスピードでクルーズをこなすスタビリティは、当時としてはまさしく異次元のものと称された。

 このデフシステムは1986年に大きな改良が施され、前後軸いずれかが空転した際の差動制限を自動的に作動させるトルセン式に進化。デフォルトでのトルク配分は50:50、ウォームギヤが差動制限をかけると最大75%のトルクを前後いずれにも配分できた。

 さらに1989年には、デビュー以来SOHC・10バルブだった5気筒ターボエンジンのシリンダーヘッドをDOHC・20バルブに進化させることで、最高出力は220psにアップ。

 結局1991年をもって生産を終えるまでに、11452台がラインオフしたとされている。

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