ランボルギーニに採用されるデザインだった!? 激レアスーパーカー、チゼータ「V16T」とは?

ガンディーニがディアブロ用にデザインした案をチゼータが採用した

 このクルマの成立には、もうひとりの、重要な登場人物があった。当初の車名である「チゼータ・モロダー」の、モロダーだ。フルネームを、ジョバンニ・ジョルジョ・モロダーという。

 音楽好きならば、名作曲家にして名プロデューサーであるジョルジョの代表作をすぐに言い募ることだろう。そうでない人でも、聞けば誰もが知る曲を、彼は世に送り出している。たとえば「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」。たとえば「フラッシュダンス…ホワット・ア・フィーリング」。

 いずれも映画で有名となり、アカデミー賞に輝いた名曲である。その他、彼の手になる名曲は、枚挙にいとまがない。

6リッターのV16をミドシップに横置き搭載するという独特なレイアウトのチゼータ
6リッターのV16をミドシップに横置き搭載するという独特なレイアウトのチゼータ

 名前からも分かるとおり、彼もまた南チロル出身のイタリア人だ。クルマ好きであったことは間違いなく、彼のクンタッチの整備を通じてクラウディオと出会った。それは、彼が2つ目のアカデミー賞を取り、オリンピックゲームの楽曲にも関わるなど、黄金期を迎えた正にそのときであった。

 1985年。ついにクラウディオの夢が、スーパーカーの聖地モデナに実現する。チゼータ・アウトモビリの設立である。出資金は、ジョルジョと半分ずつ。それゆえ、最初のプロトタイプの名は、チゼータ・モロダーであったのだ。

 クラウディオのアイデアは、奇想天外だった。否、奇想天外であることが、既存のスーパーカーに飽きたウルトラリッチに受け入れられる唯一の条件だと、販売や整備の現場を経験したクラウディオは確信していた。

 折しもときは世界的な好景気。時代は絶えずモンスターを求めていた。

 ふたりの名を冠したプロトタイプが完成したのち、モロダーはこのプロジェクトから離脱する。奇想天外なスーパーカープロジェクトの実現には多額の投資が必要だ。天文学的な出費に、さしものモロダーも怖れをなしたのか、それとも、1台を完成させた時点で夢から覚めたか。ともかく、クラウディオはひとりで、底なしのスーパーカービジネスへと突き進むことになる……。

 その結末をここではあえて記すまい。それよりも、結果として今、我々の目の前にあるチゼータV16Tを、しっかりと目に焼き付けようじゃないか。それこそが、スーパーカー好きの矜持だ。

 デザインは、もちろん、マルチェロ・ガンディーニ。ディアブロのオリジナルデザインに近い、といわれるが、そういうことは過去にも例があった。

 決してウラッコ二丁掛けなどではない、オリジナル設計の16気筒エンジンを横置きにするため、テスタロッサを凌ぐヒップ・グラマーだ。ホイールベースは異様に長く、テスタロッサ風のダクトでかろうじて、間延び感を薄めている。

 シェルクラムスタイルにガバッと開くリアエンジンフードは、整備のし易さを最優先にしたもので、ここにも厳しい現場を経験したクラウディオのアイデアを見つけることができる。

 筆者は実際にこの個体を自由に走らせたことがある。16発6リッターは、これまで経験したどのエンジンとも別種のフィールで回った。金属的でかつ精緻、アクセルを踏むたび、メタルでできた悪魔が叫ぶ。

 エンジン音じゃない。それは正に咆哮。踏みこんだ瞬間、ハッと息を飲み、心ときめいた。それは、世にも美しき音楽であった。

* * *

●CIZETA V16T
チゼータV16T
・生産年:1991年
・全長×全幅×全高:4440×2050×1120mm
・エンジン:V型16気筒DOHC
・総排気量:5995cc
・最高出力:568ps/8000rpm
・最大トルク:75.0kgm/6000rpm
・最高速度:328km/h
・0-100km/h加速:4.4秒
・トランスミッション:5速MT

【画像】生産台数15台という、貴重なチゼータのディテールをチェックする(12枚)

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