蘇ったデ・トマソは1億円! ペブルビーチで見た超弩級スーパーカー3選

毎年8月に米国カリフォルニアで開催される、クラシックカーの美しさやコンディションを競う「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」において、武田公実が目撃した北米初お披露目スーパーカー3台とは。

ハイブランドにとって、モーターショーよりも重要なお披露目イベント

 毎年8月、米国カリフォルニア州モントレー半島を舞台に展開される「モントレー・カーウィーク」。その最重要イベントである「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」は、クラシックカーの美しさやコンディション、あるいはヒストリーを競うクラシックカーイベント「コンクール・デレガンス」の世界最高峰として知られる。

 しかしその一方で、近年では世界各国のプレミアムカーブランドが、コンセプトカーや新型車のワールドプレミア、ないしは北米プレミア発表の場としても活用している。

 今回は、2019年の「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」を訪ねた際に、同イベントのスーパーカー/コンセプトカー展示コーナーで出会ったクルマたちのなかから、特に強烈な印象を受けた3台を紹介しよう。

●ベントレーEXP100GT

ペブルビーチで見かけたベントレーEXP100GT(撮影:武田公実)
ペブルビーチで見かけたベントレーEXP100GT(撮影:武田公実)

 2019年が創業100周年だったベントレーは、この年の「モントレー・カーウィーク」を、もっとも重要な祝賀行事のひとつとして捉えていた。そして、1カ月前にあたる2019年7月に英国クルー本社で公開したばかりであったコンセプトカー「EXP100GT」を、ペブルビーチとその前日に近隣で開催される、もうひとつのコンクール・デレガンス「ザ・クエイル・モータースポーツ・ギャザリング」に展示し、世界最大の高級車マーケットであるアメリカでの初お披露目とした。

 ベントレーが考える「2035年のグランドツアラーの姿」を体現したこのコンセプトカーは、現段階ではバッテリー式、あるいは燃料電池式であるかは明言されていないが、パワートレインは4基のモーターによる電動と説明されていた。

 これで300km/h超の最高速に代表される高性能を獲得するとともに、700kmを上回る航続距離も両立する。また完全自動運転も想定し、人間の感性や体調まで感知が可能なAIの導入など、今後の15年間で構築可能となるテクノロジーを体現しているという。

 その傍ら、全長5.8m/全幅2.4mの優美なボディには、もみ殻の灰を原料とするペイントが使用されたほか、内装のウッドパーツには泥に埋まっていた倒木を用いるなど、従来は捨てられていた廃材を生かしたサステイナブル素材を多用している。

 スマートな最新テクノロジーを大胆に組み合わせることで「未来のクラフトマンシップ」も表現しているとのことなのだ。

 ペブルビーチで2度目の対面を果たしたEXP100GTを、初めて陽光のもとで見て、そのグラマラスな美しさに再び魅せられてしまったことを、ここに特記しておきたい。

●ブガッティ ラ・ヴォワチュール・ノワール

ペブルビーチで見かけたブガッティ ラ・ヴォワチュール・ノワール(撮影:武田公実)
ペブルビーチで見かけたブガッティ ラ・ヴォワチュール・ノワール(撮影:武田公実)

 ペブルビーチ・コンクール・デレガンスの会場に詰めかけたギャラリーたちの注目を最も集めていたスーパーカーは、間違いなくブガッティ「ラ・ヴォワチュール・ノワール(La Voiture Noire)」であった。

 自動車界屈指の名門ブガッティがブランド誕生110周年を記念して製作し、2019年春のジュネーヴ・ショーにて世界初公開されたワンオフ・モデルの北米プレミアデビューであった。

 ラ・ヴォワチュール・ノワールは、ブガッティの現行モデル「シロン」をベースにデザイン・開発された。

 1500psを発生するW型16気筒クワッドターボ・エンジンなどのコンポーネンツがコンバートされるとのことだが、まだモックアップ状態であった。実際の完成には、まだかなりの期間がかかるといわれている。

 ラ・ヴォワチュール・ノワール(黒いクルマ)という少々風変わりな車名には、深い歴史的意味がある。このクルマのデザインワークにあたってモチーフとされたのは、1930年代後半にブガッティが製作した伝説のスーパースポーツ「タイプ57SCアトランティーク」なのだ。

 エットレ・ブガッティの息子、ジャンの主導で開発された高性能ツーリングカー「T57」のスーパースポーツ版「T57S(自然吸気)/T57SC(過給機付き)」に、同じくジャン・ブガッティがデザインしたエレクトロン軽合金製ボディを組み合わせたモデルである。

 そして総計4台が製作されたT57S/T57SCのなかでも、1939年に消息を絶って以来、今なお行方が分からないことから「自動車史上最高のミステリー」とも目されている漆黒の1台が、元祖「ラ・ヴォワチュール・ノワール」なのである。

 この愛称とエキセントリックなスタイリングを80年後の現代に再現したのが、新ラ・ヴォワチュール・ノワールというわけだ。

 冒頭で「ワンオフ・モデル」とはいったものの、このクルマの製作が1台のみに終わるのか、それとも2台目が作られるかについては意見が分かれているようだ。

 もともと、名前の明かされていない注文主のオーダーによって開発された車両で、一説にはフォルクスワーゲン・グループの元会長、故フェルディナント・ピエヒ博士、ないしはサッカー界の現役レジェンド、クリスティアーノ・ロナウド氏がオーダーしたともいわれている。

 これは、当初から2台の製作が予定されていたのか、あるいは、完成を待つことなくこの世を去ってしまったピエヒ博士のオーダー分を、ブガッティ・オートモビル社と良好な関係を築いているロナウド氏が引き継ぐこととしたのか……。

 今後の続報が待たれるところである。

●デ・トマソP72

ペブルビーチで見かけたデ・トマソP72(撮影:武田公実)
ペブルビーチで見かけたデ・トマソP72(撮影:武田公実)

 1960年代から1990年代まで、伝説の男アレッサンドロ・デ・トマソのもとで「パンテーラ」などのスーパーカーを量産していた「デ・トマソ」は、そののち紆余曲折を経て、現在では香港を拠点とするアイディアル・ベンチャーズ社が運営している。

 その新生デ・トマソが、昨夏のペブルビーチに持ち込んだコンセプトカー「P72」は、同じく香港資本で運営されるドイツ・アポロオートモビルのハイパーカー「インテンサ・エモツィオーネ」と、カーボンファイバー製モノコックを共用するミッドシップ車である。

 パワーユニットに選ばれたのは、アメリカのレース界で長年活躍してきたレジェンド的エンジニア、ジャック・ラウシュ氏が率いる「ラウシュ・エンジニアリング」社とデ・トマソ・アウトモビリ社による技術開発という、5リッターV8スーパーチャージャー付きエンジンだ。

 700ps以上を目標とするこのエンジンは、北米フォード製ユニットがベースとのことなので、初期段階で噂となっていたAMG製6.3リッターV12よりも、デ・トマソの伝統に相応しいともいえる。

 一方、ホイールベース2700mm、全長:5066mm/全幅:1995mm/全高:1130mmという豊満なサイズも相まって、そこはかとなくアメリカンな雰囲気も漂うボディについては、かつてシボレー「コルベット・スティングレイ(C2)」やシェルビー・コブラ「デイトナ・クーペ」を手掛けたことでも知られるピーター・ブロック氏が関与しており、1960年代にブロック氏が携わったデ・トマソのグループ6レーシングカー「P70」に、オマージュを捧げたものといわれている。

 ただ筆者の眼には、同じく1960年代にアメリカのフェラーリ愛好家が製作したフェラーリ330P4風のカスタムカー、「トマッシマ(Thomassima)」の現代版っぽくも映ってしまうのだが、それはいささか底意地の悪い見方というべきかもしれない……。

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