最近はシティ派SUVばかり…バブル期に人気の硬派な国産オフロードSUVが激減した理由

シティ派だけどヘビーに使えるSUVが最近のトレンド

 パジェロに限らずオフロードSUVは、オンロード走行での欠点が多い代わりに悪路走破力がとても高いわけですが、日本では滑りやすくデコボコの激しい悪路を走る機会はほとんどありません。

 SUVを扱う中古車業者は当時を振り返り、次のようにいいます。

「あの頃はオフロードSUVが一種のトレンドでした。一方で、入荷した中古車を点検したら、4WDシステムを使った形跡がほとんどありませんでした。もっぱら後輪駆動の2WDで走っていたわけです」

根強い人気のスズキ「ジムニーシエラ」
根強い人気のスズキ「ジムニーシエラ」

 そして雪道程度なら、ワゴンやミニバンの4WDでも十分に安定して走行できます。わざわざオフロードSUVを選ぶ必要はありません。

 カッコイイ外観に魅力を感じてオフロードSUVを購入したものの、日常的に使いにくくムダも多いことが分かり、次第にユーザーは減り始めました。

 このタイミングを見計らうように登場したのが、前輪駆動の乗用車系プラットフォームを使ったシティ派SUVです。

 1990年代の中盤から後半に掛けて、トヨタ「RAV4」や「ハリアー」、ホンダ「CR-V」、スバル「フォレスター」などの初代モデルが登場して人気を高め、2000年に発売された日産「エクストレイル」も売れ行きを伸ばしました。

 これらの車種は、外観がカッコ良く、車両重量はオフロードSUVに比べて軽いのが特徴です。

 とくにRAV4やCR-Vの初代モデルは、サイズもコンパクトで運転しやすく、乗用車と共通部分が多いために価格は200万円前後と割安でした。400万円を超えるパジェロに比べると、半分の価格です。

 悪路走破力はオフロードSUVに負けますが、オフロードSUVが力を発揮するような極悪な道路環境は日本にほとんどなく、雪道ならRAV4やCR-Vでも余裕で走破できます。

 その結果、2000年以降に登場したSUVは、大半がシティ派となりました。近年では、RAV4やCR-Vは初代モデルに比べて大型化しましたが、比較的コンパクトなヴェゼルやトヨタ「C-HR」、日産「ジューク」、スバル「XV」などが加わって、好調に売れています。

 シティ派SUV人気とは対照的に、後輪駆動をベースに、悪路走破力を高める副変速機を備えたオフロードSUVは、次々と姿を消しています。このカテゴリを築いたパジェロまで、2019年夏に国内販売を終えました。

 いまでは日本車だけでも30車種以上のSUVが販売されていますが、後輪駆動ベースの国産オフロードSUVは、「ランドクルーザー/ランドクルーザープラド」、レクサス「LX」、スズキ「ジムニー/ジムニーシエラ」しかありません。そのほかはすべて4WDが前輪駆動ベースになり、副変速機も装着していません。

 シティ派SUVとして人気の高いトヨタ「ライズ」・ダイハツ「ロッキー」、RAV4、エクストレイルなどを見ると、意外にオフロードSUVの持ち味も含んでいることがわかります。

 ワイルドなデザインに、汚れを落としやすい素材の荷室など、ヘビーな使われ方をイメージさせます。

 このような車種が人気を得ている理由は、SUVの本質がいまでも悪路走破力にあるからでしょう。

 ランドクルーザーでは悪路指向が強すぎますが、だからといってC-HRやCR-Vでは、ワゴンに近すぎて物足りないと感じるユーザーも少なくないわけです。

 SUVの人気と売れ行きには、このシティ派とオフロード派の比率が影響を与えます。日常的な不満を生じさせない範囲で、アウトドアのツールであることを表現することが大切です。

※ ※ ※

 2020年1月20日に新型が発売された軽自動車のスズキ「ハスラー」も、基本部分や居住性を「ワゴンR」と共通化しながら、余裕のある最低地上高や汚れを落としやすい荷室でオフロードSUVに通じる機能と雰囲気を備えています。

 人によっては、SUVを何車種も乗り継いだ結果、悪路の走破に行き着くこともあるでしょう。輸入車のジープディーラーの担当者は「生粋のオフロードSUVとされるジープ『ラングラーアンリミテッド』が、新車、中古車ともに人気を高めていて、下取査定も高額です」といいます。

 スズキのディーラーからは「ジムニーが相変わらず人気で、納期は発売当初と相変わらず1年と長いです」という話が聞かれます。

 ジムニーシエラの全長を伸ばした5ドアボディが登場したら、より息の長い人気を博すモデルになると思います。

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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