メーカー純正の後付け「自動ブレーキ」は売りません!? 自動車メーカーが売らない理由とは?
ブレーキ機能を保証するのは「過大なリスク」
現在(2019年10月)、自動車メーカーで純正「アクセルとブレーキの踏み間違い防止装置」キットを発売しているのは、トヨタとダイハツだけです。
トヨタが先に市場導入したのですが、それでも最初に発売したのは2018年12月と、まだ1年も経っていません。当初は「プリウス」と「アクア」向けで発売し、2019年5月には、年内に順次12車種まで一気に拡大することを発表しています。
筆者(桃田健史)がこの後付けキットを装着した第三世代「プリウス」を体験したのは、トヨタが2018年12月に千葉県の袖ケ浦フォレストレースウェイで開催した、新型「スープラ」先行試乗会の現場でした。
トヨタ関係者は「赤外線センサーを埋め込むためにバンパーに穴をあける改造をするなど、トヨタとしては異例の後付けキットです」とコメント。また、「悲惨な高齢ドライバーの事故が絶えないなか、メーカーとしての社会的な責任を感じたから」と導入の背景を説明しました。
一方、「衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)」の後付けキットについては「ブレーキ機能そのものを改造して、その性能をメーカーとして保証するのはとても難しいと思う」との見解を示しました。
では、トヨタ、ダイハツ以外のメーカーの対応は今後、どうなるのでしょうか?
結論からいえば、トヨタとおおむね同じ路線での市場導入の準備を進めています。
たとえば、ホンダの場合、2019年7月に一部メディア関係者を招待して本田技術研究所(埼玉県和光市)で開催した次世代技術に関する意見交換会「ホンダミーティング」で、各種の後付けキットについて担当役員らに直接話を聞くことができました。
「アクセルとブレーキの踏み間違い防止」後付けキットについては「電子スロットルだけではなく、ケーブル方式アクセルを含めて、各年代のホンダ車へ対応するべく開発を進めている段階」と説明。
一方、「衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)」については「ブレーキの制御システムは年代や車種によって多種あり、後付けキットとして対応することはかなり難しく、現時点で開発する予定はない」という回答でした。
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クルマの「走り」の基本は「走る、曲がる、止まる」です。そのなかでもっとも重要なのが、「止まる」ことです。
「止まる」ためにクルマ周辺の状況をシステムが察知して自動でブレーキをかけることは、そもそも自動車メーカーにとって大きなリスクなのです。新型車ならば、各種センサーやカメラ、さらには高精度な三次元地図などを用いるなど最新技術を盛り込むことで、自動車メーカーのリスクを大幅に軽減することができます。
その上で、「アクセルとブレーキの踏み間違い防止装置」は、「クルマが動いていない状態(止まっている状態)」になるため、メーカーとしても制御装置そのものの性能を高めることに注力することができます。
ですが、「衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)」では、「クルマが動いている状態から止めること」にあるため、ブレーキ機能のみならず、クルマの車体、サスペンションなどの経年劣化などがブレーキ性能に大きく関係してきます。自動車メーカーとしては、後付けキットを装着したことで、クルマ全体に対する品質保証に及ぼす影響が過大になるのです。
以上のように、自動車メーカー各社の実情を考えると、自動車メーカー純正の「衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)」後付けキットを発売することは当面、極めて難しいと思います。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
当たり前だ!近い将来は踏み間違いが言い逃れだと証明されるからだ