なぜ高級セダンはベンツやBMWばかり人気? 国産セダンが敵わない理由とは

日本のユーザーの声に応えていない!? 最新国産高級セダンの姿とは

 このように欧州製のセダンが着実に商品力を高めたのに比べると、国産の上級セダンは進化が滞りがちです。衝突被害軽減ブレーキは国産車も早期に装着しましたが、その後の改善が進まず、機能で欧州車に追い越されています。

トヨタ「クラウン」
トヨタ「クラウン」

 先ごろマイナーチェンジをおこなったスカイラインも、ハイブリッドには進化した運転支援機能の「プロパイロット2.0」を装着しましたが、ターボの衝突被害軽減ブレーキは設計が古く、いまだに歩行者を検知できません。

 そしていまの国産セダンは海外市場を重視するため、欧州車を目標に開発されています。価格も以前に比べて高くなりました。逆に欧州セダンは、機能を充実させながら価格は戦略的に割安にしています。

 こうなると日本において、価格が500万円から700万円に達する欧州車風の国産セダンを選ぶメリットは乏しいです。同程度の金額を支払って、本家本元の欧州セダンを買うでしょう。

 以上のように国産上級セダンは、安全装備やターボといったメカニズムで遅れを取り、なおかつボディサイズの拡大を含めてクルマ造りが欧州セダンに近づき、価格も高まったために売れ行きを下げました。

 逆に欧州セダンは売れ行きを伸ばし、上級車市場でシェアを急速に拡大させたのです。

 上級セダンを手がけるメーカーの商品開発担当者は、「いまのセダンを含めた高級車市場では、50%以上をドイツ車が占めています。このような状況は、いままで経験したことがありません。日本車にはもっと売れる余地があり、高品質と運転の楽しさを追求したいと思います」とコメントしています。

 それでも人気の高い上級セダンを開発できず、日本車がシェアを縮小させる状態が続いています。

 Cクラスが好調に売れているといっても、登録台数の1か月平均は前述の1876台です。軽自動車のホンダ「N-BOX」が1か月に2万台以上売れることを考えると、小さな市場での争いです。

 それを考慮すると些細なことに思えますが、メーカーと販売会社にとって、見過ごせない事情があります。

 まず上級セダンは1台あたりの粗利が多く、儲かる商品なので、なるべく多く売りたいと考えます。

 販売店によると「高価格車にはクルマ好きのお客様が多く、愛車を定期的に乗り替えます。メンテナンスのパッケージなども契約していただけます」ということで、高級車ユーザーはお金をたくさん払ってくれるありがたい人です。

 この市場に輸入車が入り込み、ユーザーを奪われるのは困ります。

 上級セダンの売れ行きが下がると、メーカーのイメージ戦略にも影響を与えます。

 いまのホンダでは、新車として売られるクルマの約半数が軽自動車になりました。小型/普通車の売れ筋も、コンパクトカーの「フィット」、ミニバンの「フリード」、SUVの「ヴェゼル」です。

 こうなるとホンダのブランドイメージは、「便利で手頃な実用車の多いメーカー」になり、先進技術に挑戦して高性能車を生み出していた以前の印象は薄れます。

 この状況を打開するには、セダンを好む日本のユーザーが、何を求めているのかを冷静に分析して、商品開発をおこなう必要があります。

 少なくとも、「欧州車になりたい国産セダン」に魅力はないでしょう。衝突被害軽減ブレーキも、日本の道路環境を考えて、歩行者だけでなく自転車にも対応せねばなりません。これは安全にかかわる車両開発の常識です。

 日本でクルマを好調に売る秘訣は、道路環境を含めて、日本のユーザーに合った商品を提供するという当たり前のことです。それをおこなったから、以前の日本ではセダンが好調に売れて、いまは軽自動車の新車販売比率が50%近くに達するのです。

 表現を変えると、いまの日本の上級セダン市場では、国産車よりも欧州車の方が、日本のユーザーに合った商品を提供しています。欧州セダンが多く売れるのは、当然の結果でしょう。

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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