世界で広がる「歩車分離」 歩行者事故を減らすには都市開発レベルの施策が必要?
世界中に広がる「歩車分離」
海外ではさらにレベルアップした歩車分離が進んでいるようで、なかでもヨーロッパが進んでいるのです。もともと、ヨーロッパの古い町並みでは、石畳の路面が多く、馬車が通っていました。
近代になるとクルマの往来が増えていったのですが、最近では市街中心部へのクルマの流入を規制する動きが活発化しています。
こうしたクルマの流入規制には、さまざまな側面があります。ひとつは渋滞緩和です。ロンドンで実用化したことで有名になった、「コンジェスチョン・チャージ(渋滞税)」は、曜日や時間帯によって市街地の走行料金を変化させるものです。
確かに、交通量が減ることで渋滞が減り、結果的には交通事故のリスクも減ることになりますが、歩車分離という考え方とは少し違います。
歩車分離については、ベルギーのブリュッセルのように、中心市街地の一部の車道を廃止して、歩道や緑地帯にするという動きがあります。一般的に、「(歩行者が気軽に、楽しく)歩ける町づくり」と呼ばれ、地方自治体が中心となり大規模な公共工事をおこなっています。
こうした動きが最近、アメリカでも活発化。市街地での観光客が多いカリフォルニア州サンフランシスコはもとより、クルマ社会の象徴ともいえるロサンゼルスですら、路面電車を広く導入することで、歩車分離の町づくりに積極的な姿勢を示しているのです。
交通関連の国際会議で、ロサンゼルス交通局の関係者は「交通と町づくりを根本的に見直す時期にきている」と、都市構造の大規模な変革に着手する意欲を示しています。
さらに、「究極の歩車分離」がいま、シンガポールで計画されています。シンガポール国の面積は小さく、全体で東京23区ほどとほぼ同じです。
市街中心部では、ロンドンと同じように「コンジェスション・チャージ(渋滞税)」を導入していますが、近未来での実現を目指す計画として、地上を歩道と緑地のみとして、バスやトラックなどの大型車両を地下1階、そして一般乗用車を地下2階に走行させるような、地面から縦の方向の歩車分離が考案されています。
欧州内でのモーターショーに出席したシンガポール政府の高官は「都市部の地下を活用する歩車分離の実現性は高い」と明言。
別の視点では、シンガポール国内でEV(電気自動車)や自動運転などの最新技術を連携し、移動におけるビックデータを活用することで、社会における交通のあり方を根本的に考え直そうとしています。
日本でも、国が進める「スマートシティ構想」のなかで、歩車分離を含めた未来の町づくりを真剣に議論する動きが、今年2019年から活発化しそうです。歩車の完全分離ができれば、歩行者事故ゼロを達成することは、事実上可能となるのではないでしょうか。
【了】
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
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