平成の車史は安全の歴史 先進技術で交通事故ゼロへ向けた技術革新の時代
自動車メーカー各社が力を注ぐ先進安全技術
昨今、注目を集めているのが『プリクラッシュセーフティシステム』です。ミリ波レーダーやカメラ、赤外線レーザーなどのセンサーにより、前方車両の接近や障害物を検知すると警告もしくは自動的にブレーキをかけ、衝突を回避もしくは被害の軽減を図る機能です。
世界初採用は2003年に登場の2代目トヨタ「ハリアー」ですが、『自動でブレーキを掛ける』という機能を持つのは同年に登場した4代目ホンダ「インスパイア」です。当初は装置の過信を心配して完全停止は規制されていましたが、2009年にボルボが「XC60」の日本導入の際に国交省を説得して規制は撤廃させました。
さらに、その認知度を大きく高めたのは、2010年に5代目スバル「レガシィ」に採用された『アイサイト(バージョン2)』でしょう。『ぶつからないクルマ?』というキャッチコピーはもちろん、それまで高価だったシステムを約10万円という戦略的な価格設定が功を奏して『ユーザーは安全にお金を払わない』という定説を覆しました。その後、ほかの自動車メーカーも積極的にプリクラッシュブレーキシステムの展開を行なっているのはいうまでもないでしょう。
前車との車間距離を維持しながら追従走行を行なう『アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)』も快適装備と思われがちですが、ドライバーの運転負荷を軽減するという意味では安全装備の一つです。
また、最近ではスバルの『アイサイト・ツーリングアシスト』やトヨタの『レーントレーシングアシスト』、日産の『プロパイロット』、ホンダの『LKAS』のように、ACC作動時にハンドル操作をアシストし同一車線内を走行できる機能なども用意されています。
さらにプリクラッシュセーフティシステム以外にも側方、斜め後方、後方と360度をカバーする運転支援システムも次々と採用されはじめているのです。
このように、クルマの安全性能は平成の30年の間に飛躍的にレベルアップしてきたものの、残念ながら大きく普及するようになったキッカケは自動車メーカーの積極的なアピールよりも法規制対応に合わせて……という部分が大きかったのも事実でしょう。恐らく、当時は安全の事は解っていながらも、ビジネス的な問題(=販売価格の上昇)との葛藤があったのも否めません。
その一方で、『最近のクルマは高い』、『最近のクルマは大きく/重くなりすぎ』、『最近のクルマはカッコ悪い』と切り捨てる人もいます。
確かに、コンピューターや家電はコンパクトで多機能に進化しながらもコストは大きく下がっています。『それと比べるとクルマは』と思うのもわかりますが、家電とクルマとの大きな違いは命を預かっていることです。
クルマは便利な道具ですが、使い方を一歩間違うと凶器にもなりえます。そうならないために、自動車メーカーはより難しくなった安全要件をクリアしながらクルマ造りを行なっているということを忘れてはいけません。
【了】
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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