なぜトヨタは販売店を統合? 人気ミニバン「アルファード/ヴェルファイア」も統一化される可能性も
自動車業界の変換期における販売店の存在意義とは
しかし、トヨタの狙いはそれだけではありません。「クルマを所有しない」という社会に向けた変革でもあるのです。クルマを取り巻く環境は今後、所有するものから必要な時だけ使うものへと移り変わっていくと予測されています。
そんな社会変化への対応としてトヨタ自身が定額制サービスやカーシェアリング事業を立ち上げますが、その実施にあたっての地ならしが今回の全販売店全車種併売化といえます。
前出のトヨタ自動車広報部は次のようにも説明しています。
「販売店の見直しで、より地域に密着し、地域社会をより豊かにすることを目指す。具体的には、モビリティサービスを提供する前提として、お客様の求める商品やサービスをどの店舗でも提供できる体制を整えることが狙いです」
※ ※ ※
たとえば、カーシェアリングであれば、クルマを受け取ったり返却する拠点は多ければ多いほど便利です。また、トヨタは1台のクルマに乗るのではなく、好きなクルマや乗りたいクルマを自由に選び、違うクルマに乗りたくなったら乗り換え、不要になったら返却するという定額制サービス「KINTO(キント)」をスタートさせることも発表しています。
販売店が全車併売になれば、定額サービス利用者の乗り換えや返却窓口が増え、販売チャンネルの枠を取り去ることで選べる車種の選択肢も広がるなど、ユーザーのメリットにつながるというわけです。
前出の東京トヨペット上馬店の副店長は、販売店の存在意義について次のように話します。
「最近、インターネットなどで物を購入できることが増えています。そんななか、販売店のメリットとしては実際にクルマを見て触れて試乗ができるということです。
また、『人と人のコミュニケーション』が可能な場でもあるため、単にクルマを購入するだけでなく、保険やクルマのメンテナンスといったアフターサービスなど総合的なカーライフをサポートする場所といえます」
「100年に一度」という自動車業界の大変革の時代を迎え、トヨタは『クルマを作る会社からモビリティに関するあらゆるサービスを提供する会社へと変わる』と宣言しています。
販売ネットワークの変革は、単に販売現場の効率化ではなく、自動車業界を取り巻く変化の一環と捉えられます。なお、今後全国的には全販売店で車種を併売するようになっても4チャネルの「トヨタ店」「トヨペット店」「ネッツ店」「カローラ店」という名称は継続するとしていますが、東京に関しては一足早く統合しチャネルの垣根を無くした販売を展開するようです。
【了】
Writer: 工藤貴宏
1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに寄稿している。執筆で心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はマツダ CX-60/ホンダ S660。