実燃費に近い? 導入1ヶ月の「WLTCモード燃費」、従来表記も併用でわかりづらさも 表記変更のユーザーメリットとは
WLTCモード燃費の導入でもエコカー減税の本質は変わらず
しかしWLTCモード燃費の導入で、エコカー減税の矛盾が是正されたり、燃費競争が終わるわけではありません。エコカー減税は、燃費基準の達成度合いに応じて減税率を決めるので、燃費基準の仕組みを根本的に変えない限り、エコカー減税の本質も変わらないのです。
今の燃費基準は、車両重量の区分を設け、JC08モード燃費を対応させたものです。したがってこの制度では、ボディの重さに対して燃費の良いクルマが基準を達成しやすくなります。ボディサイズは考慮されないため、たとえば車両重量が1500kgのLサイズカーが仮にボディをオールアルミ製に変更して1300kgに抑えたとしても、軽量化の努力は報われません。ほかのひとまわり小さな1300kgのミドルサイズカーと同じ基準で比べられるだけです。
従来と同じく、わずかな燃費数値の違いでエコカー減税率が変わることもありますから、燃費競争はなくなりません。最近はユーザーが燃費競争に飽きて(呆れて?)、以前ほど燃費数値が重視されませんが、これは別の話です。
今後の展開として、2019年10月1日に消費税が10%に増税され、この時には自動車取得税が廃止されます。
しかしこれにも問題があり、自動車取得税を廃止する代わりに、新しい税金が登場します。自動車税を従来と同様の「種別割」と、新しい「環境性能割」に分けるのです。「環境性能割」はエコカー減税を実施している自動車取得税に似た税金なので、ユーザーの負担する税額は、消費増税分だけ増えることになります。
今のところWLTCモード燃費は、2018年10月以降に発売された新型車で義務化されていますが、販売されているすべての車種に適用されるわけではありません。JC08モード燃費のみの記載車種も残ります。
そうなると2019年10月1日に自動車取得税が廃止され、自動車税が「種別割」と「環境性能割」に二分されても、後者の基準をWLTCモード燃費にすることは困難です。しばらくはJC08モード燃費を使う(あるいはWLTCモード燃費と併用する)ことになります。
これについて前出の購入検討ユーザーも、「表記の併用は、自分のようなクルマに詳しくない人からすると非常に混乱します。複数の検討車種ごとに表記が違えば、比較もできないです。なぜわかりづらくするのですかね?」これは誰もが同じように疑問に思うことでしょう。
燃費表記の問題だけでなく、現在の自動車税制やエコカー減税もとても複雑でわかりづらいです。もっと単純でわかりやすく、燃費の優れた価格の安い車種ほど、購入時の自動車取得税や購入後の税額も安く、燃費が悪く価格の高いクルマは、税金が高まる単純な方法なら、購入ユーザーとしてもわかりやすく理屈にも合うでしょう。
【了】
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。