新たな「“2ドア”スポーツカー」発表! 水平対向ターボエンジン&「旧車デザイン」採用! “ペタンコ顔”×ド迫力ウイングのポルシェ「フラッハバウRS」独国モデルとは

ポルシェが2026年8月、世界に1台だけの特注車「フラッハバウRS」を発表しました。往年の名レーシングカーを写した“傾斜ノーズ”の中身とは、どのようなものなのでしょうか。

世界に1台の“スラントノーズ”911

 ポルシェは2026年8月14日(現地時間)、特別なオーダーに応える「ゾンダーヴンシュ(Sonderwunsch)」部門が手掛けたファクトリーワンオフモデル「フラッハバウRS(Flachbau RS)」をドイツで発表しました。

 テーマは、伝説のレーシングカー「935/78」、通称「モビーディック」へのオマージュです。

 その源流となる935は930型「911ターボ」をベースに開発され、1976年からレースで活躍。世界メーカー選手権を4年連続で制するなど数々の成功を収め、なかでも935/78は特徴的な長いボディ形状からモビーディックの愛称で知られました。

 ベースは、あるポルシェ愛好家が所有していた2018年式の「911 GT2 RS」(991.2型)。ヴァイザッハパッケージ付きのほぼ新車状態の1台で、オーダーは「さらなる性能とフラッハバウルック、911 GT3 R レンシュポルト(rennsport)風のリアウイングを」というものでした。

 開発にはゾンダーヴンシュに加え、スタイル・ポルシェ、ヴァイザッハの開発エンジニア、ポルシェモータースポーツ、マンタイ(Manthey)の専門家が参加し、約3年を要しました。

700馬力の「911 GT2 RS」をベースに約3年かけて製作された「フラッハバウRS」
700馬力の「911 GT2 RS」をベースに約3年かけて製作された「フラッハバウRS」

 マンタイはニュルブルクリンク近郊を拠点とするポルシェGTモデルのスペシャリストで、世界有数のポルシェ系レーシングチームとしても実績を重ねています。

 フラッハバウ(スラントノーズ)とゾンダーヴンシュの関係は古く、1980年代には935をモチーフに、フロントフェンダーを低くしリトラクタブルヘッドライトを備えた911ターボ(930型)が用意されました。1982年から1989年の販売は948台で、今日なお最も希少な911のひとつです。

 2025年5月には、ポルシェが欧州特許庁に「Flachbau」「Flachbau RS」の名称を登録したことが判明。今回、その理由がこの1台だったと明かされました。

 ボディカラーは、1974年に911へ設定された伝統色「グランプリホワイト」。色味はポルシェAGのコレクションにある往年の911を基準に合わせ込みました。ボンネットとルーフのストライプは標準のGT2 RSと配色が反転し、中央のストライプとU字形の意匠はカーボン地です。

 フロントフェンダーは低く抑えられ、ホイールアーチ内の圧力を逃がすルーバー付きエアアウトレットを新設。給油口のフラップと機構も専用設計とし、バンパーも新造してマンタイ製のブラックフラップを加えました。

 象徴だった丸型ヘッドライトは姿を消し、3段重ねの極薄LEDへ。ハイ/ロービームは高さ40mm弱、デイタイムランニングランプは20mm未満という薄さです。

 空力面では、フロントスプリッターにマンタイキットのアンダーボディ構造とリアディフューザーを組み合わせ、リアホイールにはカーボン製エアロディスクを装着。S字マウントのリアウイングは911 GT3 R rennsport(992型)に着想を得たもので、取り付け位置は約50mm高く、手動で3段階に調整できます。

 マンタイキット装着のGT2 RSと比べ、ダウンフォースは“High Downforce”で2%、“Low Downforce”で3%増加。最高速の340km/hかつHigh Downforce設定では、後軸に554kgのダウンフォースを発生します。この調整機構と位置マーキングは特許で保護されています。

 インテリアは、シート前方こそ改装前と同じレッドアルカンターラとブラックレザー、カーボンの雰囲気を残しますが、後方はレーシングカーのように切り詰められました。PCMはレザー張りの小物入れへ置き換えられ、オーディオは全撤去。遮音材やフロアカバーも大半が取り払われています。

 露出した金属部はグランプリホワイトで塗られ、引き直したワイヤーハーネスはあえて見せる仕立て。カーボンバケットシートのヘッドレストにはFlachbau RSの刺しゅうと、ノルドシュライフェのアウトラインが入ります。

 助手席側のダッシュボードには「Sonderwunsch」のゴールドバッジと「Factory One-Off 2026 | Flachbau RS」のプレートが備わります。三角表示板や牽引フックは着脱式ボックスへ収め、サーキット走行時に降ろせます。

 こうした積み重ねでベース車から31.6kgの軽量化を達成。もともと軽さを突き詰めたヴァイザッハパッケージ付きからの数値です。パワートレインはオーナーとの合意で手つかずとされ、3.8リッター水平対向6気筒ツインターボ(700馬力・750Nm)と7速PDKのままとされました。

 1台のためのプロジェクトながら、検証は徹底されています。簡易クラッシュシミュレーションやエアバッグの展開検証、構造解析、CFDによる空力計算を経て、新たな金型を製作。さらに試験車両を3台用意し、照明設備や風洞、実走で検証しました。

 リアウイングはハイドロパルス試験機での振動試験と砂袋による静荷重試験を実施。さらにメンディヒ飛行場での走行、ニュルブルクリンク北コースでの50周、ヴァイザッハでの耐久試験などを重ね、リアウイングには顧客が約15万km使用した場合に相当する負荷を与えて検証しました。

 テストドライバーのラーズ・カーン氏は「フラッハバウRSは非常に高い速度域でもきわめて安定していて正確です」と語ります。カモフラージュを施した試験車の走行動画は、数時間で10万回以上再生されたといいます。

 デザインを担ったのは、2018年に披露された935の現代版も手掛けたグラント・ラーソン氏。この935はポルシェスポーツカー70周年を記念して登場した700馬力のクラブスポーツレーシングカーで、77台限定で製作されました。ラーソン氏は「新しいフラッハバウRSは、象徴的な935モビーディックのデザインを現代的に再解釈したものです」とコメントしています。

 製品/個別化担当バイスプレジデントのアレクサンダー・ファビッヒ氏は、安全性や技術、公道走行の適法性を犠牲にせず935の象徴的な姿を再解釈することが狙いだったと語ります。

 フラッハバウRSはカタログに載るモデルではなく、依頼主のためだけに作られた公道走行可能な1台です。価格は公表されていません。

※ ※ ※

 ワンオフでありながら、簡易クラッシュシミュレーションや風洞、実走試験まで徹底した検証を重ねたことがフラッハバウRSの凄みです。出力は上げず、31.6kgの軽量化と空力で速さを積み増すという答え。1980年代に948台だけ生まれたフラッハバウが、935の記憶とともに現代へ戻ってきました。

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Writer: 佐藤 亨

自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。

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