【現地取材】モータースポーツの現場から自動車業界の未来を創る!「SUPER FORMULA PARTNER DAY SUMMER 2026」で見えた、最先端技術と採用市場の熱気

自動車業界が「CASE」と呼ばれる大変革期を迎える中、モータースポーツの現場が最先端技術の社会実装と人材獲得の主戦場となっています。富士スピードウェイで開催されたイベントでは、トヨタのSDV開発やENEOSの次世代燃料など「走る実験室」の実態を公開。持続可能な未来への経済戦略をレポートします。

変革期の自動車産業がサーキットで競う未来とは

 2026年7月17日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)にて、日本レースプロモーション(JRP)が主催、日本自動車会議所が後援する「SUPER FORMULA PARTNER DAY SUMMER 2026」が開催されました。
 
 今回で3回目を迎える本イベントは、国内最高峰のフォーミュラレース「スーパーフォーミュラ」の舞台を活用し、モータースポーツに関わる最先端の「技術」の紹介と、次世代を担う学生たちに向けた「おしごと」の紹介を2大テーマに掲げています。
 
 単なるレースイベントの枠を超え、日本の自動車産業が直面する課題解決や、未来のモビリティ社会を支える人材育成の場として大きな注目を集める本イベント。現地の模様を紹介します。

日本レースプロモーションの代表取締役社長・上野禎久氏
日本レースプロモーションの代表取締役社長・上野禎久氏

■ 技術セッション:モータースポーツの現場を支える最先端テクノロジーが集結

 午前11時からスタートした「技術セッション」の会場には、モータースポーツや自動車開発を技術面から支える数多くの有力企業・団体がブースを出展しました。

 会場内に一歩足を踏み入れると、まず目を引くのが迫力ある実物展示の数々です。ホンダ製「M-TEC/HR-417E」やトヨタ製「TGR-D/TRD01F」といった、レースの心臓部である最新エンジンの生展示をはじめ、「NEXT-FORMULA-PROJECT」のプロトタイプ車両「JNFP-1」や、スーパーフォーミュラのマシン「SF23″赤寅”」が並び、来場したエンジニアや業界関係者らが熱心に足を止め、細部を覗き込んでいました。

 出展企業には、GAZOO Racingや無限(M-TEC&トーテックアメニティ)、NISSAN NISMOといった自動車メーカー・直系モータースポーツ部門はもちろんのこと、XTREME-D、産総研、東京大学、COZMIC、日本自動車レース工業会(JMIA)、RPV、タマチ工業、日本クリンゲンベルグ、横浜ゴム、そしてENEOSなど、産学官にわたる多彩な顔ぶれが揃いました。

 開会にあたり、JRP代表取締役社長の上野禎久氏は、本イベントにかける熱い思いを次のように語りました。

「このイベントは、モータースポーツが持つ『走る実験室』としての価値をより広く、深く皆さんに伝えるため、昨年から継続して開催しています。

 回を重ねるごとに企業間の技術交流が進み、実際に多くのビジネスマッチングが生まれるようになりました。

 サーキットという開放的で集まりやすい場所で実施するからこそ、フランクな対話ができる点もモータースポーツが持つ強みです。

 極限状態の中で新しい技術を試せるサーキットは、自動車産業にとって非常に貴重な場所です。ここで鍛えられた技術が、将来的に日本の自動車産業全体の発展に貢献する足がかりになることを確信しています」

 また、出展企業の中から、カーボンニュートラル燃料の取り組みで注目を集めるENEOSの担当者からは、次のような実務的な視点が語られました。

「ENEOSでは原油由来の燃料だけでなく、バイオ燃料や電気、水素、合成燃料など、時代のニーズに応じた多様な選択肢の提供を目指しています。

 今回スーパーフォーミュラに供給している低炭素ガソリン『ENEOS EARTH ONE』は、バイオ由来のエタノールを10%混合したガソリンです。植物が成長過程でCO2を吸収しているため、全体の排出量を抑制できる特性を持っています。

 こうしたクリーン燃料の導入は、自動車メーカー側がエタノール混合ガソリンに対応できる車両を確実につくり込んでくれているからこそ実現しています。

 まずは使える状態を整え、それをいかに普及させるかが我々の役割です。中東依存からの脱却やエネルギー安全保障の観点からも、国内で持続可能な燃料の選択肢を増やすことは重要であり、今後もこの分野の研究を続けていきます」

ENEOSではカーボンニュートラル燃料の開発を進めている
ENEOSではカーボンニュートラル燃料の開発を進めている

■ 基調講演:GAZOO Racingが挑むソフトウェアとSDVの最前線

 技術セッション内の基調講演エリアでは、トヨタ自動車(GAZOO Racing Company)GR統括部 主幹の茶谷勝利氏が登壇。

「GRにおけるモータースポーツ現場の困りごと解消に向けたソフトウエアでの取り組み」をテーマに、モータースポーツを起点としたSDV(Software Defined Vehicle)開発の実践例が語られました。

「私たちが担当する車両開発やソフトウェアアップデートでは、SDV(ソフトウェア定義車両)の概念を取り入れています。

 当初は社内でも驚きの声がありましたが、私たちの狙いはモータースポーツを通じて『壊しては直す』を繰り返し、クルマを極限まで鍛え上げることにあります。かつて市販車をレース用に改造していたアプローチとは異なり、現在は『レースに勝つために開発した技術をいかにお客様へ届けるか』という逆転の発想でクルマづくりを行っています。

 カーボンニュートラルへの多様なアプローチを進める中で、エンジン車のソフトウェアアップデートやSDV化は、クルマを安心して長く乗り続けてもらうための不可欠なツールです。実際にイベントでも、クルマがアップデートを通じて育っていくプロセスをお客様に喜んでいただけました。レースの現場で得た安心・安全の知見を市販車へダイレクトにフィードバックする仕組みを、今後もさらに強化していきます」

 極限状態のレースで培われた技術が、最先端のソフトウェアによって市販車へと還元されていく。講演を聴講する人たちは、その具体的なプロセスに熱心に耳を傾けていました。

モータースポーツを起点としたSDV(Software Defined Vehicle)開発の例として「GRヤリス」の一部が展示された
モータースポーツを起点としたSDV(Software Defined Vehicle)開発の例として「GRヤリス」の一部が展示された

■ おしごとセッション:総勢80名の学生が熱視線!憧れのチーム・エンジニアと直接つながる特別な時間

 午後からは、自動車業界やモータースポーツ界へ高い関心を持つ総勢80名の学生たちが全国から集結し、「おしごとセッション」が幕を開けました。

 このセッション最大の魅力は、普段はテレビ画面やサーキットのピット越しにしか見ることのできない、トップチームの現役エンジニアやメカニック、プロモーション担当者たちと「直接」対話ができる点にあります。

 今回のイベントには、無限、GR、NISMOの人事担当者も現地に駆けつけ、未来の仲間となる学生たちの姿を見守りました。

 学生たちは「GROUP 1」から「GROUP 8」までの8つのグループに分かれ、分刻みのタイムスケジュールに沿って会場内を回るローテーション形式でセッションに参加しました。

 参加企業やチームの顔ぶれも非常に豪華で、エンジニア、メカニック、バックヤードが参加したROOKIE RACINGをはじめ、エンジニアのTOM’S、エンジニアとメカニックが揃う無限やNISSAN NISMO、エンジニアのHRC Honda RACING、さらにはエンジニア、メカニック、マネージャーが参加したTGMGP、メカニックのTeam Le Mansなど、第一線のレーシングチームが集結。

 これらに加え、広報・プロモーションのGAZOO Racing、マーケティングのSUPER FORMULA、そして運営を担うFUJISPEEDWAYなど、モータースポーツビジネスを多角的に支える多様な職種も網羅されていました。

 さらに、白幡勝広氏、井原慶子氏、藤井順子氏、浜島裕英氏といった、日本のモータースポーツ界を牽引してきたレジェンドやスペシャリストたちも個別に登壇し、それぞれの視点から「モータースポーツを仕事にすることの厳しさと、それを遥かに上回るやりがい」を学生たちに伝えていました。

 おしごとセッションエリアに設けられた企業ブース(無限、GAZOO Racing、NISSAN NISMO)では、学生たちが現役スタッフを質問攻めにする場面も。また、参加した学生からは次のような前向きな声が聞かれました。

「今回初めてこのような就活イベントに参加しました。元々自動車業界で働くことに興味を持っていましたが、今回のセッションを通じて、モータースポーツ業界の中だけでも本当に多様な働き方や職種があることを知るきっかけになり、非常に有意義な時間となりました」

多くの学生や業界関係者がモータースポーツの「おしごと」に熱視線
多くの学生や業界関係者がモータースポーツの「おしごと」に熱視線

■ 変革期を迎える自動車業界:いま、現場が求める人材のリアルとは

 華やかなイベントが進む一方で、業界関係者との対話を通じて見えてきたのは、現代の採用市場における非常にリアルな課題の数々です。

 自動車業界は現在、「CASE」に代表される100年に一度の大変革期の真っ只中にあります。車が単なる移動手段から「動くソフトウェア」「社会インフラの接続点」へと進化する中で、現場が求める人材の定義も急速に変化しています。

 特に近年、各自動車メーカーやレース関連企業がしのぎを削っているのが「新卒採用の確実な獲得」と「IT・ソフトウェア人材の確保」です。激化する人材獲得競争の中、GoogleのようなグローバルなIT企業や他業界のメガテックに競合負けしてしまうケースも少なくなく、各社は「自社で技術を開発することの本当の魅力・独自の面白さ」を、いかにしてターゲット層へ前向きに届けるか、その方法を必死に模索しています。

 単に待っているだけでは優秀な人材は集まらない時代だからこそ、様々な自動車関連企業がそれぞれの強みを活かして手を取り合い、新しい価値を発信し続けることが、これからの日本の自動車産業には必要不可欠です。

 今回開催された「SUPER FORMULA PARTNER DAY SUMMER 2026」は、モータースポーツの極限の技術が若き才能を惹きつけ、その才能がまた新たな技術を生み出すという、サイクルの一端を見出していました。

 極限状態のレース対応で培われた技術が市販車や未来のモビリティへと還元されていくように、この場に集まった熱意ある学生たちが、やがて日本の自動車産業を引っ張るエンジニアへと成長していくかもしれません。

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Writer: くるまのニュース編集部

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