待ったなし! 「クルマ×AI」重要課題は車内エンタメやSDVだけではない 国が本気で進める「AI-READY化」とは?
近頃話題の「クルマ×AI」。車内エンタメや自動運転、SDVといった目に見える進化に注目が集まりますが、日本には根本的な重要課題が存在します。「人とくるまのテクノロジー展2026」の取材をもとに、経産省が自動車産業の勝ち筋として本気で推進する「AI-READY化」の本質と最新動向に迫ります。
AIはクルマにどんな変化をもたらすのか?
最近、なにかとAI(人工知能)が話題になります。
AI関連企業の株価が爆上がりしたり、アメリカのIT大手が数兆円レベルでAI関連投資をするなど経済ニュースを騒がせています。
自動車関連でのAIといえば、ソフトウェアを軸とした車両開発を行うSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)において、AIの活用が進んでいます。
また、ユーザー視点では車内エンタメでのAI活用や、アメリカや中国で社会実装が進む「エンド・トゥ・エンド AIベース」のレベル4自動運転の日本導入が気になるところです。
では、これから先、AIはクルマにどんな変化をもたらすのでしょうか。
「クルマ×AI」の最新動向を探るために、国内外の自動車関連技術が集結する、「人とくるまのテクノロジー展 2026 YOKOHAMA」(会期:5月27日〜29日、パシフィコ横浜)を取材。
自動車メーカーや自動車部品メーカーの関係者と意見交換し、またAI関連の講演を視聴する中で、日本における「クルマxAI」の本質が見えてきました。

例えば、日産の場合、「AIディファンドビークル」という考え方を示しています。
これは、1980年代に実施した”人を科学したクルマづくり”である「901活動」を基点とする理念と、最新の知能化技術を融合した安心して使える運転支援技術を意味します。
こうしたAIディファンドビークル開発を支えるのがSDVであり、日産ではSDVプラットフォームとして「ニッサン・スケーラブル・オープン・ソフトウェア・プラットフォーム」を構築しているのです。

また、日産に限らず自動車メーカー各社はAIを採用した、クルマづくりにおける大幅なコスト削減にも着手しているところです。
自動車メーカー各社が5月上旬から中旬にかけて通期決算報告を行い、その際に今期の見通しや中長期的な施策を示していますが、数社が「トリプルハーフ」と称する事業構造変革戦略を強調しました。ここにAIを使うのです。
トリプルハーフとは、コスト、工数、開発期間をそれぞれ現在と比べて半減することを指しますが、例えばAIを活用して試作段階を圧縮して試作車の作成の頻度を減らすことなどが考えられます。
そのほか、自動車部品や自動車関連サービスに関する出展エリアでは、「AI」の文字が本当に目立ちます。
各社の取り組みは様々ですが、自動車メーカーがSDV戦略を推進している現状で、自動車産業界のサプライチェーンとバリューチェーンではAIへの取り組みを強化しようとしています。
自動車産業の生き残りをかけた「AI-READY化」
こうして自動車産業界を俯瞰してみると、「クルマ×AI」では大きく2つの視点があることがわかります。
ひとつは、新車の企画・開発・製造の効率化による原価低減。
もうひとつが、ユーザーがクルマに接する際に直接、または間接的に感じる安全や利便性の向上です。
ここまでの話は、ユーザーとしてもなんとなくイメージしやすいのではないでしょうか。
ところが、「クルマ×AI」にはもっと大きな課題があり、その対応が遅れると日本全体に甚大な影響が及ぶ危険性を秘めています。
この点について、「人とくるまのテクノロジー展」の主催者である、公益社団法人 自動車技術会の企画講演として開催初日の最初に行われた「経済産業省のAI政策の動向と展望」で詳しい説明がありました。
登壇したのは、同省商務情報政策局・情報技術利用促進課 兼 情報産業課AI産業戦略室/情報技術利用促進課長 兼 情報産業課AI産業政策課長の渡辺琢也氏です。
講演の冒頭、グローバルでは自動車産業に限らす移動革命、情報革命、そして生成AIによる新たなる革命が起こっていることを指摘。
また、日本では今後の少子高齢化のトレンドを回避することは非常に難しく、そうした現役世代が縮小する中で経済成長を維持するためには、一人あたりの生産性を上げることが必須だと強調しました。
そのためにはAIの積極的な活用が必要だが、半導体など情報処理機器、ハードウェア、ソフトウェアなどほとんどの領域で海外に依存しており、日本はいわゆる「デジタル赤字」が急激に拡大している状況だと指摘。
さらに、直近では中国で開発されたコストパフォーマンスに優れたDeepSeekの登場や、ChatGPTが多様なタスクをこなすようになったり、画像・映像・触覚などAIが活用するデータがマルチモーダル化し空間を認識するフィジカルAIの進化が急速に起こっていると説明しました。
こうした中、各種調査によれば、日本は海外と比べると個人も企業もAIの活用実績が明らかに遅れており、国として対応策の重要性を強調。
具体的には、政府は日本成長戦略会議の中で示した17の重点分野の中で、重点61品目を挙げていますが、AIロボットについて2040年にはグローバル市場全体の3分の1となる20兆円を日本が確保するとしています。
自動車産業でも、製造や物流の分野でAIロボットの活用が期待されるところです。
また、AI全体については、いわゆるAI法(正式名称:人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)を2025年に施行しています。
経済産業省の渡辺氏が「欧州のような(AIに関する)規制法ではなく、(日本では)推進法」の位置付けであることを強調したのが印象的でした。
つまり、日本で最適なAIの活用をどんどん進めていこうというのです。
その上で「AI基本計画」(副題:信頼できるAIによる「日本再起」)を提案しています。
基本構想としては、2点。
1つ目は、「信頼できるAI」を追求し「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」へ。2つ目に、「危機管理投資」「成長投資」の中核として、今こそ反転攻勢。
裏を返せば、現時点でAIは、アメリカの巨大IT企業や中国のスタートアップが主役であり、さらにAIについて国家的な関与が強まっている中で、日本は劣勢だということです。
AI基本計画で、個人や企業が積極的に「AIを使う」こと。AI開発力の戦略的な強化による「AIを創る」こと。AIガバナンスを主導して「AIの信頼性を高める」こと。
そして、AI社会に向けた継続的な変革を進めて「AIと協働する」という、4本柱で日本にとってのAIの未来を描こうとしています。
なお、AIの進化は極めて速いため、AI基本計画は毎年更新されます。

AIの転換期において、産業力強化の視点で見ると、日本の自動車産業におけるAIでの勝ち筋が「AI-READY化」にあると、渡辺氏は指摘します。
自動車産業など製造業におけるAI-READY化とは、いわゆる「暗黙知(あんもくち)」を形式知(けいしきち)に変えることです。
経験や勘など、言葉や文章で表現できない領域は簡単に真似できない、日本の製造業における品質の高さを裏付けだと言われています。
これを様々な観点でデータ化することでAIへの対応をうながすのです。
こう聞くと、日本のものづくり精神に反すると思う人もいるでしょう。
ただし、グローバルの製造業でAIが急激に発達している現状を踏まえると、日本がアメリカや中国に対して対抗しうる分野を絞り、海外のAI関連技術と日本が得意とするAI技術領域を上手く組み合わせていかなければ、日本の製造業全体に大きな影響が及びかねないというのが、国の見立てです。
すでに、製造業などでAI-READY化に向けた動きが出てきており、様々な課題が浮き彫りになってきました。
国としては、こうした分野で活躍する企業に対する支援を継続的に行い、「クルマ×AI」新時代に向けた施策を急ピッチで進めているのです。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
























