「AT車はエンストしない」は“誤解”です! 死傷事故を招いた坂道の意外な「落とし穴」! 知っておきたい「防止策」とパニックを防ぐ「対処法」とは
AT車でも操作次第でエンストが起こり得ることをご存知でしょうか。2025年に都内の坂道で送迎車がエンストし死傷者を出した事故を巡り、運転手が書類送検されました。実はAT車であっても、坂道でのシフト操作ミスなどによってエンジン停止するリスクがあり、その際はブレーキやハンドルが極端に重くなる危険な状態に陥ります。国土交通省も注意喚起を行っている、AT車でエンストが発生するメカニズムと、万が一の際の正しい対処法を解説します。
国交省も注意喚起! ATのエンストはどんな時に起こる?
2026年1月6日、警視庁が昨年7月に起きたAT車による坂道でのエンストによる事故の運転手である74歳の女性を書類送検したと、共同通信などが報じました。
この事故は、2025年7月に発生したもので、東京都内で高齢者施設の送迎車が坂道を下って電柱に衝突し、施設利用者が死傷。新聞報道などによると、1人が死亡、8人が重軽傷を負うという重大事故でした。
「AT車でエンスト?」と思う人も多いかもしれませんが、国土交通省もAT車のシフト操作の誤りによるエンストの注意喚起をしています。
国土交通省が注意喚起しているのは、坂道発進のシーン。前進したいのにシフトが「R(リバース)」に入っていたり、逆に前進の「D」レンジに入っているのに後退して坂を下ると、エンストしてしまう可能性が起こりうるということです。原因は、シフトが誤った位置に入っている操作ミスです。

AT車でエンストというと、大半の人が「本当?」と首をかしげそうですが、国土交通省では過去に「下り坂を後退レンジで前進した時のエンスト発生試験、その後の走行試験」「上り坂を前進レンジで後退した時のエンスト発生試験、その後の走行試験」「プッシュ式スタート装置の操作確認試験」などを行ったことがあり、こうした事故の市場調査なども実施しています(国交省 報道発表資料「オートマ車での誤った操作によるエンストに注意!! ~ビデオによる解説も行っています~」平成26年4月18日)。
国交省では、Rレンジで前進して坂道を下ってしまった場合、あるいはDレンジで後退して坂道を下ってしまうケースでは、エンストが起こりうると注意喚起しています。エンストしてしまうと、ブレーキやパワステが利きにくくなります。
ブレーキの場合は、エンジンの力を使っている倍力装置のアシストがなくなります。パワーステアリングの場合もエンジンの力でアシストしているため、前輪を動かすアシストが利かずに、昔のクルマや現在の一部のスポーツカーに多い“重ステ”のような状態になります。
加えて、最近当たり前になりつつあるプッシュ式エンジンスターターで、ブレーキを踏まずにスターターを押してしまい、エンジンがかからずに後退(あるいは前進)してしまうシーンも注意喚起しています。
最近は、スターターを押してもエンジンがかからないハイブリッドなどが多く、ブレーキを踏まずにスタータースイッチを押すと電源(パワー)自体はオンになっている状態。
そのまま坂道でブレーキを離して発進しようとすると、車両の重さで下がりはじめ、ブレーキを踏んでも重く、パワーステアリングも利かないため、パニックに陥る可能性があります。
こうした急な坂道でのエンストを防ぐには、まずシフトレバーの位置が合っていることを確認します。ただし、都内の事故では、ブレーキが利かなかったという一部報道もあります。
急な坂道、たとえば上り坂でDレンジに入れたつもりなのにRレンジに入っていると、急加速(後退)する危険性が高まります。
Dレンジに入っているのに急な登り坂で少しずつ後退すると、エンジンの動力伝達方向と車輪から伝達されるトルクが逆方向になり、エンジンに過大な負荷がかかるため、エンストが起きます。
対処方法は、意図せず後退してしまった場合、しっかりとブレーキを踏むことです。いつもよりもブレーキペダルが硬く(重く)なり、利かないように感じられてもしっかりと踏みます。停車したら即座にPに入れ、パーキングブレーキに入れます。
なお、最近のクルマ(AT車・MT車共に)は、ヒルスタートアシストの標準化が進んでいますが、作動時間は2秒程度ですので、作動時間内に発進操作(シフトレバーの位置の確認も含め)をすることが大切です。
また、急な坂道で「N(ニュートラル)」にしたまま発進するのも危険。自重で下がってしまうのはもちろん、後退している際にDレンジに入れると、トランスミッションの破損リスクもあります。
平地で再始動しようとしてもエンストしたり、ブレーキペダルが利かなかったりする場合は、故障している可能性が高いため、走行し続けることはきわめて危険です。
当たり前と思わずに、シフトレバーの位置を確認してから発進すること(坂道にかかわらず基本です)、プッシュ式エンジンスターターの場合は、しっかりとブレーキを踏んでからスターターを押すこと、さらに急な坂道ではニュートラルにしないことが大切です。
Writer: 塚田 勝弘
中古車の広告代理店に数ヵ月勤務した後、自動車雑誌2誌の編集者、モノ系雑誌の編集者を経て、新車やカー用品などのフリーライター/フリーエディターに。軽自動車からミニバン、キャンピングカーまで試乗記や使い勝手などを執筆。現在は最終生産期のマツダ・デミオのMTに乗る。




















