プレリュー堂で提供されるワンプレートカレー（500円・消費税込み）の中心となるGTは、伸びやかで気持ちのよい加速を象徴し、前述の通りトマトの酸味とクミン・コリアンダーの清涼感で構成されています。

「プレリュードらしさを最も素直に出すため、一番時間をかけて作り上げた」と一条氏が語るように、豚肉の塊とスパイスの立体感が、バランスの良いGTモードの走りを想起させます。

　次にSPORT。これはブラックペッパー（黒胡椒）を三段階の挽き方でブレンドし、スポーツモード特有の鋭いレスポンスや、峠道でのキレ味を味で表現しています。

　粗挽きの刺激、パウダーの鋭い香り、中間のリズム。それぞれが食感として立ち上がり、アクセル操作に対するクルマの反応の変化を思わせます。

　COMFORTはカルダモン（強い香りを持つショウガ科のハーブでスパイスの女王とも呼ばれる）とフェンネル（セリ科のハーブで甘さと苦味を持つ）、シナモン（世界でもっとも古くから知られるという樹皮からつくられるスパイス）による穏やかな香りが主役です。

「カルダモンはセロトニンを促すと言われていて、心を落ち着かせる効果があります」と一条氏は語り、包み込まれるような快適性を香りで表現。優しく甘いフェンネルが後味に残り、心地よい余韻へと導いてくれます。

　ここに、Honda S＋ Shiftのニュアンスが加わった後半3種類のスパイスが続きます。GT（S＋ Shiftバージョン）は、コリアンダーを主役にし、GTの爽快感にさらにキレを加えるブレンドです。

　シトラスのような柑橘系の香りが強調され、ロングドライブのワクワク感を想像させます。

　SPORT（S＋ Shiftバージョン）は、もっとも刺激的な味わい。花椒（ホワジャン：山椒の一種）とチリペッパー（赤唐辛子）によるしびれと辛味がアクセルを踏み込んだ瞬間の高揚感を表現し、まさに“ギュン”と伸びるスポーツモードそのものです。

「かけすぎ注意です。本当に辛いので」と一条氏が笑いながら説明したこのスパイスは、非日常の刺激を楽しむための象徴的存在になっています。

　最後のCOMFORT（S＋ Shiftバージョン）は、フェンネルの存在感を際立たせた上品な香りが特徴です。

　クルマに例えるなら、大切な人を隣に乗せてゆっくり流す時の心地よさ。甘草が加わり、柔らかな余韻がいつまでも続きます。

　一条氏は「乗らなくても、食べたら乗った気持ちになれる。そんなカレーを目指しました」と語り、今回のカレーが単なるコンセプトフードではなく、プレリュードの走りを味で再解釈したプロダクトであることを強調。走りの魅力を新しい形で伝えようとするホンダの姿勢を示しました。

　プレリュー堂は、新型プレリュードが持つ“6つの走りの個性”を、スパイスという誰にでも親しみやすい形で体験できるユニークな試みです。

　走りの爽快感や上質さを味覚と嗅覚に置き換えることで、クルマに馴染みの薄い世代でも直感的に魅力を感じられる工夫が凝らされています。

　ホンダ陣と一条もんこ氏の情熱が込められたカレーは、クルマを“操る楽しさ”を新しいアプローチで伝える媒体として機能しています。

　実際に乗らなくても、味わうことで“乗った感覚”に近い高揚感を得られるのも、この企画ならではの醍醐味です。

　2ヵ月超の“開発”期間を経て誕生したスパイスカレーが、わずか4日間の短い開催期間のみでしか味わえないことが惜しまれますが、プレリュードの魅力に触れる入口として、多くの来場者に新しいクルマ体験を提示してくれることでしょう。