「ハイブリッド」はブランド化? 日本だけなぜHV車を欲しがるのか
経済的な損得勘定で比較するHVとノーマルエンジン
しかしその一方で、経済的な損得勘定も重要でしょう。「どの程度の距離を走れば、ハイブリッドでトクをするのか」も考えてみましょう。
例えば、セレナを買う時は、ベーシックなS(スマートシンプル)ハイブリッドと、本格的なハイブリッドとなるe-POWERで、選択に迷うことがあると思います。
セレナe-POWERハイウェイスターV(340万4160円)と、ハイウェイスターVセレクション(293万4360円)の価格差は46万9800円です。e-POWERでは2列目がセパレートタイプのキャプテンシートになるなど、機能にも差があります。エコカー減税はe-POWERが免税だから、納める税額で約8万円の差が生じます。そうなると最終的な実質差額は39万円です。
そして実用燃費がJC08モードの85%、レギュラーガソリン価格が1リットル当たり140円で計算すると(今は150円近くまで高騰していますが過去の平均で140円とします)、e-POWERの1km当たりの走行単価は6.3円です。Sハイブリッドは9.9円だから、1km当たり3.6円の差が生じます。
そうなると10万8000kmを走れば、e-POWERとSハイブリッドの価格差を燃料代の差額で取り戻せます。仮に1年間に1万5000kmを走れば、7年少々です。逆に1年間に7000kmの走行では15年を要します。またガソリンの価格が高まると、取り戻せる距離は短くなります。
全般的な傾向として、大排気量の高価格車ほど、取り戻せる距離が短いです。価格が500万円でエコカー減税が免税であれば、17万円の節税が可能になり、大排気量車にはハイブリッドの燃費数値が、ノーマルエンジンを積んだグレードの約2倍に達する車種もあるからです。10万km以下で取り戻せる場合もあります。
逆に小排気量の低価格車は、取り戻せる距離が長くなります。ノーマルエンジンも燃費が優れ、1.2~1.5リッタークラスでは、ハイブリッドの燃費数値が2倍になることはありません。そしてハイブリッドには、駆動用モーター/駆動用電池/制御機能が必ず搭載され、ノーマルエンジンとの価格差を20万円以下に抑えることは現在では難しいです。その結果、価格差を燃料代の差額で取り戻せる距離も15万km前後に達します。
概算的な目安をいえば、1年間に1万5000km以上を走ると、ハイブリッドを選ぶ経済的なメリットが強まります。それ以下のユーザーは、ハイブリッドを選んだことで損失が生じることも考えられるため、セレナで行ったような損得勘定の計算をすると良いでしょう。
【了】
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。