快適装備不要、乗り心地最悪、市販車に似てても中身は別物、レーシングカーの目的とは
速さに必要のない快適装備は取り外す
一方で、速く走るためには必要のないものは、すべて取り払ってしまいます。その方が軽いマシンになるからです。室内のカーペットも剥ぎ鉄板も剥き出しですし、ラジオや時計などもありません。もちろんカーナビも不必要です。トップカテゴリーのマシンになれば、シートは運転手用一脚だけですし、助手席に人を乗せることはありませんから。
快適性などはまったく考えられていませんから、室内音はうるさいです。耳栓もしていないし、鼓膜を痛めてしまうほどやかましいマシンもあります。
サスペンションは硬められていますから、路面が荒れていればピョコピョコとウサギのように跳ね頭がグラグラ揺すられることもあります。乗り心地も悪いです。
マシンによっては、ライトも取り外され、その代わりに本物のライトにそっくりなシールを貼ったりもします。夜は当然走れません。
ただその一方で、安全装備に関しては厳しく規定されています。室内にはロールケージと呼ばれる鉄のパイプが張り巡らされています。ジャングルジムのような装備は、レース中にマシンが横転しても、ボディがつぶれることはありません。ドライバーの生存空間と言いますが、ゴロンゴロンと何回転も横転しても、室内がペチャンコになることがないので人間が生きていられるのです。
シートベルトは、着物の帯のように太く、しかも5点式で左右の腰から伸びたバックルに、両肩を締め付けるベルトが伸びています。さらには、股の下からもベルトが伸びています。ゴロンゴロンと横転しても、ドライバーは室内で転がることがありません。がっちりとドライバーは支えられているのです。
車両は、どんな衝撃にも耐える破裂しない安全なガソリンタンクを搭載しています。レース中にクラッシュして、ガソリンに引火させないためです。
というように、外観には市販車の面影が残るレーシングカーですが、中身は別物なのです。繰り返しますが、目的がはっきりしているからです。
【了】
Writer: 木下隆之
1960年5月5日生まれ。明治学院大学卒業後、出版社編集部勤務し独立。プロレーシングドライバーとして全日本選手権レースで優勝するなど国内外のトップカテゴリーで活躍。スーパー耐久レースでは5度のチャンピオン獲得。最多勝記録更新中。ニュルブルクリンク24時間レースでも優勝。自動車評論家としても活動。日本カーオブザイヤー選考委員。日本ボートオブザイヤー選考委員。