トヨタとヒョンデが「民間外交」 クルマ好きTOPの交流で何が見えた? 協業もあり得る? 「水素はアジアから」は実現するのか
2024年10月27日にトヨタとヒョンデのコラボレーションイベント「Hyundai N x TOYOTA GAZOO Racing FESTIVAL」が韓国の京畿道龍仁スピードウェイで開催されました。どのようなイベントだったのでしょうか。そして今後どのような広がりがあるのでしょうか。
トヨタとヒョンデが「民間外交」 その意図は?
「ラリージャパンに向けた盛り上がり」と「韓国のモータースポーツの発展とファン拡大」を目的に、韓国のエバーランドスピードウェイで行なわれたトヨタとヒョンデのコラボレーションイベント「Hyundai N x TOYOTA GAZOO Racing FESTIVAL」から約1週間が経過。
すでに国内外の様々なメディアで記事が掲載されていますが、メーカーの“垣根”を超えたタッグは、とても好意的に捉えられているようです。
日本と韓国の関係は1990年頃から貿易や政治の面で対立が起きているのも事実ですが、今回のイベントはまさに“クルマ”と言う共通言語を活かした“民間外交”的な側面もあったのではないかと、筆者(山本シンヤ)は分析しています。
そんなトヨタとヒョンデですが、実は多くの共通点があります。代表的なモノをあげてみると、こんな感じです。
(1)フルラインメーカー
(2)マルチパスウェイを唱える
(3)モータースポーツを市販車づくりに活かす
(4)トップがクルマ大好き、モータースポーツ大好き
今回のイベント開催のキッカケは(4)の要素が大きいです。この話の発端はチョン会長が2024年初頭に来日でした。
元々はトヨタ博物館などの視察が目的だったようですが、お互い3代目でクルマ好き・モータースポーツ好きと言うことで、屈託ない会話をしている中で「競争は大事だけど、協調するところは協調しよう」とイベントの話になったそうです。その目的はズバリ「アジアのクルマ好きをもっと増やしたい」です。
実はこの話には筆者しから知らないプロローグがあります。実は昨年のWRCジャパンにヒョンデのチャン・ジェフンCEOが来日。メディアとの懇親の場で、同業の先輩へ「ミスター豊田に会うにはどうしたらいいか?」と聞かれたそうです。
返答に困った先輩が筆者に連絡、その時に僕は「モータースポーツの場、ピットやパドックでバッタリ会うのが1番だと思いますよ」と伝えました。この時、章男会長は体調を崩していたので会うタイミングはなく。
次は今年1月の東京オートサロンでした。ヒョンデは初出展でしたが、筆者はNブランドのキーマンの1人であるパク・ジュン氏のインタビューでブースを訪れていました。パク氏は「アキオさんは僕のヒーローです」と教えてくれました。
実はその僅か10m先で章男会長はトヨタイムズの撮影中で、近くにいながらも残念ながら会えず。
実はその翌日にもチャンスがありました。屋外のイベントスケジュールがヒョンデ→トヨタの順番で、「ここで会えたら最高!」と期待したものの、何とパク氏が緊急の打ち合わせで会場を離れてしまい、ここでも会えず。
このように何度か接点が生まれそうなチャンスがありましたが、繋がりそうで繋がらない事に筆者はモヤモヤ。ただ、その後トヨタ関係者から、「2月にヒョンデの副社長(元会長秘書)が来日。章男会長が産業記念会館を案内。ここで副社長が『チョン会長が会いたいと言っている』とお伝えした所、豊田氏は『ラリージャパンに来て』とお誘いしました」と。それが結果として、チョン会長の来日に繋がったのは言うまでもないでしょう。
筆者はそんなやり取りを知っているからこそ、今回のイベントの開催は「本当に実現しちゃった!」と言う驚きと共に、他の誰よりも感慨深く感じていました。
ちなみにイベント前の朝礼で章男会長はトヨタの関係者全員にこのように語りました。
「今回のミッションはここに来ている全ての人を“笑顔”にすること。そして、できたら“クルマ好き”にすること。このミッションを可能にするためには何をしてもいいです。責任は全部僕が取ります。とにかく何をやってもいいので、以上!!」
これは、まさに章男会長が常日頃から語る「自分以外の誰かのために」の国際的な実践編と言うわけです。
ちなみにこのイベントはトヨタとヒョンデの共同開催ではあるものの、トヨタの役目は約70%のシェアを持つヒョンデに対して、「アウェイ(トヨタ/レクサス含めて1.2%のシェア)である韓国でモータースポーツ盛り上げをサポートすることで、『クルマ好き連合』を作りたい」と言う想いが強かったと思っています。
そんなイベントは両社のWRCチームを中心とした迫力ある走行パフォーマンスとファン参加型プログラムなどが実施されましたが、やはり注目はやはりオープニングでした。
章男会長がドライブするヤリスWRCにチョン会長が乗り、得意のドーナツターンを含むパフォーマンスを3000人の観客、国内外300人以上のメディアの前で披露しました。日本のメディアにとっては何度も見る光景ですが、韓国メディア、そして韓国の観客にとっては初めての出来事で驚きの声と拍手に包まれました。
実はその直前、マシンに両会長が乗る時のパドックは2ショット狙いのメディアが殺到し、「押すな、押すな」で辺りは一触即発状態。逆を言えば、それくらいの両会長の競演は“大ニュース”だったと言えるでしょう 。
パフォーマンスの後、ステージに登壇した両会長は笑顔で握手を交わしました。最初はいつも通りの章男会長に対して、ややクールなチョン会長でしたが、章男会長の感謝の言葉とポーズを含めた「サランヘヨ(韓国語で「愛しています」の意味)」のパフォーマンスの効果か、途中から満面の笑み。そして、2人はこのように語りました。
「トヨタとヒョンデが一緒に手を取り合って、よりよい社会、そしてモビリティの未来をつくっていきたいと思います(章男会長)」
「私たちがモータースポーツに対する共通の情熱を見出し、このイベントを開催できたことを大変嬉しく思います(チョン会長)」
個人的には章男会長の真骨頂とも言えるファンに更に喜んでもらうためのアドリブ(=例えば、ヒョンデNのモデルに乗りパフォーマンスを見せるなど)が見られなかったのは少々残念でした。この辺りは恐らくキッチリと台本通りに進めたいヒョンデ側に気を使ったんだろうなと。ただ、今回は初めての試みだったので、2,
3回と進めていくにつれて色々と変わってくるでしょう。
イベント終了後、章男会長はメディアに対してこのようにコメントしました。
「今回のイベントを開催するにあたり、1番はじめに『ありがとう』を韓国の皆さまにお伝えしたいです。普段は競い合っているライバル同士が、クルマの未来づくりに向けて手を組み、『クルマ好き連合』を作ることができました。そういう意味では歴史的なイベントだったと思っています。ラリージャパンは両チームの選手たちが素晴らしい走りを披露してくれるはずなので、是非とも応援していただきたいと思います」
国も文化も考えも異なる2社による共同イベント、恐らく運営面では色々な反省点や課題があったかもしれませんが、総合的に見ると「大成功」と言っていいでしょう。
ちなみにこの場でラリージャパン2024の太田稔彦実行委員会会長(=豊田市市長)から、「2026年から2028年までの3年間、豊田市を拠点としてWRCを開催することについて、WRCプロモーターと契約締結した」と言うサプライズ発表もありました。
日本と韓国には時差がなく、飛行機だと約2時間ちょっと、更に船を使えばクルマでの行き来が可能です(一時的な輸入通関が認められている)。
今回のイベントで「クルマ好きには国境がない」が解ったので、今回で終わりではなく、来年以降も是非続けてほしい、いや続けなきゃダメでしょう。
今回のイベントによりトヨタとヒョンデの関係がより近づいた感じがしますが、その先には何があるのでしょうか。筆者はズバリ「水素連合」じゃないかと思っています。
両社は共に「水素はモビリティからはじまり持続可能な社会を構築する上での重要な柱になる」と認識しており、古くから絶え間ない研究開発を進めてきています。その結果、日本と韓国は水素技術で世界最先端にいますが、残念ながらビジネスとしてはどちらもまだ軌道に乗っていないのが現実です。
次のステップに進むためには、今回のイベントと同じように、「競争は大事だけど、協調するところは協調しよう」と言う考えがとても大事になってきます。
これまでトヨタはBMWやダイムラートラックと水素に関する協業を進めてきました。対するヒョンデはGMやVWグループのシュコダと協力関係を構築しています。
そんな両社がタッグを組んだらどうなるのでしょう。これまで自動車産業は「欧米から」が定説でしたが「水素はアジアから」が実現できる可能性があるかもしれません。
ちなみに今回のイベントの展示ブースを見ると、トヨタは現在もモータースポーツで鍛え続けている水素エンジン搭載の「GRカローラ」と水素エンジン搭載の試作車両「AE86 H2コンセプト」を展示。
対するヒョンデは水素燃料電池+ハイブリッドを搭載したローリングラボ(モータースポーツから着想を得た高性能技術や特定の電動化技術を量産モデルに適用する前に研究開発と検証を行なう車両)の「N Vision 74」を展示と、共に水素が燃料となるモデルです。
更にヒョンデはこのイベントの後に、世界の自動車メディアに自社の水素施設の見学と来年発売予定のFCEVのコンセプトモデル「イニシウム」をお披露目されました。
筆者はこの場に参加させてもらいましたが、ヒョンデ担当者は日本メディアの細かな質問に対しても詳しく/丁寧に答えてくれましたが「協業の可能性はありますか?」の質問だけは、誰に聞いても「色々検討はしていますが」と曖昧な回答でお茶を濁されてしまいました。
これらは筆者の願望含めた推測になってしまいますが、もし協業が現実になったとすると世界のエネルギー事情が色々と変わりそうな気がしてなりません。
何はともあれ、今回のイベントは「ゴール」ではなく「スタート」になる事は、間違いないと思っていいと思います。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
ない!あくまでWRCの話だけ!
サムソンと同じで後々は恩を仇で返す韓国式の擦り寄り戦法ですね
記事の名を借りた自慢話ですか。
で、肝心の水素の話は何だっけ?
「縁を持ったら法則発動」という名言がありますので、関わらないのが一番ですよ。