なぜトヨタは「ランクル」を3つのモデルに戻したのか? 見た目や数字が違うだけじゃない!? 求められる立ち位置

ランドクルーザーシリーズには「300」「250」「70」という各モデルが存在。そのキャラクターの違いを理解できない人もいるかもしれません。

ランドクルーザーシリーズの違いとは

 トヨタ「ランドクルーザー250」のデビューによって、久しぶりにシリーズ体系が2000年代初頭と同様の3モデルに戻りました。
 
 1980年代前半から始まったこのシリーズ体系がどのような理由で始まったかを知らない世代が増えているため、「300」「250」「70」各モデルのキャラクターの違いを理解できない人もいるかもしれません。

300・250・70の立ち位置とは
300・250・70の立ち位置とは

 トヨタが250系のプレスリリース内の説明によれば、300系は“象徴”、250系は“生活実用”、そして70系は“普遍”のモデルであるとしています。

 この説明もどこかフワッとして分かりづらいところがありますが、250系がモデルコンセプトとして掲げている「原点回帰」という言葉に基づいて考えていきましょう。

 250系の源流は、1984年にデビューした「ランドクルーザ−70ワゴン」です。

 当時のシリーズと言えば、フラッグシップでステーションワゴンモデルであった「ランドクルーザー60」、そして「トヨタジープBJ型」以来の実用四輪駆動車のDNAを踏襲していた70系のみでした。 

 1980年代に入ると日本は景気傾向がいよいよ上向きとなり、同時にアウトドアレジャーブームが興ります。

 ここで注目された自動車カテゴリーが、それまで一部の好事家のものだった四輪駆動車、いわゆる「ヨンク」でした。

 このカテゴリーにはランクル、三菱「パジェロ」、いすゞ「ロデオビッグホーン」、そして日産「サファリ」が存在。

 しかし、当初はどれも1ナンバーか4ナンバーという貨物車であり、後席の居住性はあまり考慮されていませんでした。

 ところが1983年になると、パジェロが「ワゴン」という新基軸を提案。

 積載性よりも後席の快適性を重視して、一般ユーザーにアピールしたのです。

 これがヒットし、パジェロは時代の寵児へと登り詰めていきます。1984年になると、トヨタ、いすゞも各モデルでこれに追随。

 こうして登場したのが70系ワゴンです。

 国産クロスカントリー4WDとして、初めて四輪コイルリジッド式サスペンションを採用したモデルでしたが、パジェロがロングボディのワゴンをラインナップしていたのに対して、こちらはショートボディのみ。

 さらに外観が70系をディフォルメしたような意匠で、内装はチープ、2.4リッター直4ガソリンエンジンが非力だったために、国内での人気は今ひとつでした。

 1980年代末から1990年代初頭にかけてヨンクブームは過熱し、パジェロ人気が最高潮に達します。

1988年には60系がワゴンモデルを追加していましたが、ボディサイズや価格の面から一般ユーザーに浸透するまでには至らず、トヨタは三菱やいすゞの後塵を拝する状態でした。

そこで1990年に満を持して登場させたワゴン専用モデルが初代「ランドクルーザープラド」でした。

 富裕層やマニア層をあえて対象とせず、乗用車としての乗りやすさ、使いやすさをアピール。

 プラドというマスコットネームが付けたのも、パジェロのような親しみやすさを感じてもらうための一手だったようです。

 こうした先祖が生まれた背景を知ると、改めて250系の立ち位置が見えてきます。

 プラドは70系、90系、120系、150系と続きますが、代を重ねるごとに高級SUV路線へと進み、車格以外は上位グレードだった100系や200系との差が分かりづらくなっていきました。

 同時に、ボディデザインもどこかランドクルーザーらしさが薄まっていったのも否めません。

 そこで高級路線は300系に任せ、また2023年大復活で湧いた70系には実用路線を引き続き取らせて、250系はまさに原点に立ち返るような路線を取ったと言えます。

 それはクロスカントリー4WDでありながら、乗用車ライクな性能を持たせた、かつての「55/56型」を彷彿させます。

 ランドクルーザーとして、いかに広いユーザー層に乗ってもらうかというのが主眼だったモデルです(日本では成功を収めたとは言えませんが…)。

 今回、250系は300系と同じGF-Aプラットフォームを採用し、ボディサイズも大幅に向上させました。

 これにより、「300系と何が違うの?」と思ったユーザーが多いかもしれません。

 確かにプラットフォームや駆動システムはほぼ共通ですが、各部に与えられているものは大分異なっています。

 まず250系に搭載されている2.8リッターターボディーゼルエンジンは300系にはないユニットですし、ガソリンエンジンにしても2.7リッター直4を採用しており、よりユーザーフレンドリーなものとなっています。

 サスペンションは基本的には300系と250系は同じ形式で、フロントはダブルウィッシュボーン式、リアは5リンク式になっています。

 ただ300系の特徴である電子制御でダンパーの減衰力調整をする「AVS」は250系に採用されていません。さらに、一見同じような機能に見える300系の「E-KDSS」と250系の「SDM」ですが、E-KDSSが前後のスタビライザーの効果を細かくコントロールするのに対して、SMDはフロントスタビライザーの効果をON/OFFするだけです。

 また同じ形式でも、味付けはまったく違うものになっているといいます。300系が高級感や重厚感のある乗り味に対して、250系はサスペンション、とくにリア回りの部材を徹底的に軽量化することで、軽快感を表現しています。

 これは250系がコンセプトに挙げた“生活重視”を具現化した結果です。普段使いにおいてラグジュアリーではなく、楽しさやノンストレスを追求したということです。

 300系が様々な最新技術を投入してトップレベルに造られているのに対して、250系はその一部を活用しながらも、価格を低めに設定して市場に広く出回ることを主眼にしていることが分かります。

 そして70系は、クロスカントリー4WDとしてのオーセンティックな構造を崩すことなく、日本の国内向けに3ナンバーならではの快適性と使いやすさをプラスした実用車になります。

「300系はデザインが今ひとつクロスカントリー4WDらしくないし、70系だと快適性や安全装備が十分ではない」というユーザーにドンピシャな、まさにシリーズのメインストリームと言えるモデルなのではないでしょうか。

 ネット上の反応を見ると、新規参入のユーザーからはもちろんのこと、300系に否定的だったオールドファンたちからも評価されているのが印象的です。

 しかし好評ゆえに、すでに2024年生産分の受注はほぼ終了したという情報も。

 300系、70系も同様ですが、ランクルが欲しくても買えないという状況は、少しでも早く解消してもらいたいところです。

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Writer: 山崎友貴

自動車雑誌編集長を経て、フリーの編集者に転向。登山やクライミングなどアウトドアが専らの趣味で、アウトドア雑誌「フィールダー(笠倉出版社刊)」にて現在も連載中。昨今は車中泊にもハマっており、SUVとアウトドアの楽しさを広く伝えている。

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