トヨタの「正統派セダン」登場! 「初代セルシオの感動が蘇る!?」 クラウンセダンの試乗で見えたもの

FCEVレベルを内燃エンジン+モーターで再現!? もうひとつのパワートレインとは

 もう一つはHEVモデルです。2.5L+THS IIのハイブリッドながらも有段ギア(4速AT)を組み合わせた「マルチステージハイブリッド」です。エンジン最高出力を使用できる速度域を下げる(約140km/h→約43km/h)、高速走行時は回転数を抑える制御の採用で、2.5Lながらも強い動力性能と燃費性能を両立しています。

 実際に走らせるとスポーツのそれよりも電動車感が強い(モーター出力がスポーツより高い180ps/300Nm)フィーリングに加えてTHSIIながらダイレクト感が高いメリハリある走りが可能ですが、EV→HEV切り替えに一瞬あるモタツキ、エンジン始動時に乗員に「ブルン」と伝わる振動、更には回生時のATのシフトショックなど、スムーズさに欠けるのは残念な部分。

 静粛性はフル電動車であるFCEVと比べると劣りますが、ANC(アクティブノイズコントロール)の効果も相まって、エンジンを回した時でもスポーツのそれよりノイズは抑えられており、トヨタのHEVの中では最上位にあると思います。

 フットワークはクロスオーバー/スポーツは電動AWDの駆動力制御を活用して駆動方式の概念を変えるコーナリング姿勢を生み出していますが、セダンはFRレイアウトの旨味を活かし、「よりスッキリ」、「よりスムーズ」、「より素直な」なコーナリングが可能です。

 サスペンションはスポーツよりもソフトな設定ですが、姿勢変化やロールは抑えられた安定したコーナリングが可能。この辺りは基本素性(低重心、ワイドトレッド、前後重量配分に優れる)の良さに加えて、ACAやロール姿勢制御なども効いているはずです。

 乗り心地は路面へのアタリ、足の動き、ショックの吸収性など全てにおいて「優しい」の一言です。

 とにかく凹凸を乗員に伝えないと言う観点では、センチュリーを除くトヨタ車の中で最良、いやレクサスを含めてもトップに位置するレベルです。

 20インチ仕様は45タイヤ装着とは思えない入力の優しさと無駄な動きを抑えたバネ上のフラット感の見事なバランス、OPの19インチ仕様は「エアサス付き?」と錯覚するレベルでストロークでショックを吸収する足さばきが印象的でした。

 更にショーファー用として使う際にはドライブモードはリアシート優先の「リアコンフォート」をセレクト。どちらも路面の凹凸をより伝えないAVS設定と無駄な動きを出しにくいEPS制御によって、クルマに乗っている事を忘れてしまいます。

全長5mを超すボディサイズを感じさせないクラウンセダン
全長5mを超すボディサイズを感じさせないクラウンセダン

 更に驚きだったのは、FCEV/HEVはメカニズム/搭載レイアウトが全く異なるにも関わらず、乗り味がほぼ同じだった事です。

 実は両モデルの車両重量/前後重量配分がほぼ同じで、合わせ込みはしやすかったと聞きます。

 この個性が異なる2つのクラウンに乗って感心したのは、与えられたキャラクターがより明確になっている事でした。

 歴代クラウンで例えるならばスポーツは「アスリート」、セダンは「ロイヤル」の個性がより際立って表現されています。

 ちなみにクロスオーバーは「アスリートとロイヤルのいい所取り」だと筆者は分析しています。

 古いクラウンは多彩な車種バリエーションを備えるもキャラクターに差はほぼありませんでした。その一方、直近のクラウンは1車型(=セダン)でキャラクター分けをしていました。

 では、16代目はどうでしょうか。

 4つの車種バリエーションを備え、各々に見合ったキャラクターが与えられています。その結果、今まで以上に「クラウンらしさ」を突き詰める事ができたように思います。

 つまり、16代目の「変革と挑戦」はクラウンのDNAをより濃厚にしたと言えるでしょう。となると、間もなく登場予定のエステートはどのような個性、どのような乗り味で登場するのか。

 恐らく開発陣も悩み所のように感じていますが、「おっ、その手があったか!!」と驚かせてほしい所です。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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